第99話 もう一人のノーランク
モルドが後ろへ下がる。
そして。
ナイフを投げた。
ヒュッ。
鋭い軌道。
だが。
アルディオは避けない。
届く前に。
ナイフが崩壊した。
砂のように。
砕け散る。
「チッ!」
モルドが走る。
アルディオも走る。
速さならモルドが上だった。
距離が離れる。
モルドが笑う。
「追いつけなきゃ意味ねぇぞ!!」
アルディオは答える。
「そうだな」
その瞬間。
右手を上に向ける。
空間が軋む。
「!?」
モルドが飛び退く。
ドゴォォォォン!!
さっきまでモルドがいた場所が。
崩壊した。
地面が消える。
岩が消える。
何も残らない。
モルドが舌打ちする。
「ふざけた能力だな」
アルディオは呟く。
「鍛え続けた」
「何年も」
「何十年も」
そして。
自分の右手を見る。
「俺は弱かった」
「射程が短かった」
「威力も弱かった」
「だから鍛えた」
目が狂気に染まる。
「ただひたすらに」
周囲が崩れていく。
モルドは理解した。
こいつは。
才能だけじゃない。
尋常ならざる努力で。
ここまで来た。
アルディオが言う。
「お前を殺して」
「俺はさらに上へ行く」
モルドがナイフを構える。
「やれるもんならやってみろ」
その言葉に。
アルディオが初めて笑った。
「どうして鬼ごっこをしていたか分かるか?」
モルドの表情が変わる。
アルディオは続ける。
「それはな」
「お前に仲間がいないことを」
「確認するためだ!!」
その瞬間。
アルディオが左手を前へ出した。
モルドが目を見開く。
「なんだ……その左手は……」
異形だった。
皮膚がない。
血管が剥き出し。
うねうねと蠢いている。
まるで悪魔の腕。
アルディオが震える。
苦しそうに。
だが。
笑っていた。
「この力は」
「まだ完成していない」
左腕が軋む。
血が噴き出す。
骨が悲鳴を上げる。
「一度使えば」
「数日は動けない」
さらに。
左腕に亀裂が走る。
「下手をすれば腕も失う」
モルドが固まる。
つまり。
切り札。
そして。
アルディオは叫んだ。
「だからこそ!!」
左手を握る。
「お前に使う価値がある!!」
「最上位にな!!」
左手をモルドへ向ける。
地面が震える。
空気が悲鳴を上げる。
そして。
能力発動。
「全核崩壊!!」
周囲数百メートル。
全てが崩壊した。
木々。
岩。
地面。
空気さえ裂ける。
強度は関係ない。
硬さも関係ない。
全てが等しく壊れる。
モルドが叫ぶ。
「ふざけんなァァァァ!!」
ナイフを投げる。
走る。
飛ぶ。
だが。
何も意味をなさない。
身体が崩れる。
腕。
脚。
胴体。
全て。
砂のように砕けていく。
モルドが崩壊しながら笑った。
「ははっ……」
「最後のほうは」
「面白かった……」
そして。
消えた。
能力ランキング第9位。
モルド。
能力『無傷』
死亡。
アルディオは膝をつく。
左腕から血が流れている。
肩で息をする。
視界も霞む。
だが。
口元には笑みがあった。
「あと……」
「八人……」
その数は。
残りのランキング最上位の数だった。
アルディオは倒れた。
◇
朝。
レイが目を覚ます。
ふと。
窓際を見る。
そこには。
クロエがいた。
外を見つめている。
その顔は。
心配そのものだった。
レイが声をかける。
「おねぇさんが心配?」
クロエが振り向く。
そして。
少し笑った。
「えぇ」
「いくら第4位でも心配よ」
無理もない。
アストラは強い。
だが。
今も一人。
世界中から命を狙われている。
クロエは窓の外を見る。
「アス姉は」
「私の唯一の肉親」
静かな声。
「一緒にディバイドを立ち上げた」
「そこから全部一緒だった」
レイは黙る。
クロエが続ける。
「アス姉がいなかったら」
「私は何度も死んでた」
レイは思い出す。
ライゼンとアクアとの戦い。
ネメシスとの戦い。
どれも。
アストラの助けがなければ終わっていた。
レイが笑う。
「良い姉妹愛だこと」
クロエも笑った。
そして。
ふと聞く。
「あなたは兄が心配じゃないの?」
その瞬間。
レイの表情が止まる。
カイ兄。
レイが五歳の頃。
突然いなくなった。
そして気付けば。
国最強の兵士。
能力ランキング第7位になっていた。
レイは俯く。
その時だった。
バン!!
扉が開く。
「おい!!」
ディオンだった。
顔色が悪い。
焦っている。
「急いで大広間へ来い!!」
レイとクロエが立ち上がる。
ただ事じゃない。
二人は急いで部屋を飛び出した。
◇
大広間。
全員が集まっていた。
フォーサ。
マッド。
ミント。
三人の幹部。
そしてディオン。
空気が重い。
ディオンが言う。
「お前達……」
「ノーランクだよな……」
深刻な顔。
レイ達が頷く。
ディオンが資料を差し出した。
レイが受け取る。
そして。
固まる。
「……は?」
そこに書かれていた。
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死亡確認
第89位
第83位
第80位
第77位
第58位
第56位
第55位
第53位
第50位
第42位
第13位
※各地で発生した同時襲撃事件による被害
犯人
能力ランキング第7位
カイ
本人は
『ノーランク』
と名乗っている
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沈黙。
レイの思考が止まる。
呼吸も。
鼓動も。
何もかも。
止まった気がした。
カイ。
兄。
第7位。
そして。
ノーランク。
レイの手が震える。
「……は?」
もう一度。
呟いた。
レイには何も。
理解できなかった。




