第100話 第7位の始まり
「男の子か!!かわいいなぁ!」
父が嬉しそうに笑った。
「男の子……」
母は悲しそうに笑った。
カイが誕生した。
父は有名な商人だった。
毎日忙しい。
家に帰ることも少ない。
母は違った。
最低限の食事だけを与え。
それ以上はほとんど世話をしなかった。
理由は単純だった。
母は奴隷出身。
黄色い髪。
ただそれだけの理由で。
人として扱われなかった。
商人だった父に拾われ。
今の生活がある。
だが。
奴隷時代。
男たちから酷い目に遭ってきた。
だから。
男が苦手だった。
恐怖だった。
子供ですら例外ではない。
愛せなかった。
それがカイの始まり。
◇
カイが三歳の時。
妹が生まれた。
名前は。
レイ。
黄色い髪の女の子だった。
カイは嬉しかった。
毎日そばにいた。
毎日話しかけた。
毎日遊んだ。
レイも兄になついた。
だが。
それ以上に。
母はレイを愛した。
抱きしめる。
笑いかける。
優しく頭を撫でる。
カイには一度も向けられなかった笑顔。
それを。
レイは当たり前のように受け取っていた。
カイは嫉妬しなかった。
ただ。
少しだけ寂しかった。
◇
カイが五歳になった。
能力に目覚めた。
鉄の壁。
小さな鉄の壁を出せる能力だった。
嬉しかった。
初めての能力。
レイに見せた。
「すごーい!」
レイが笑う。
その笑顔だけで十分だった。
カイは何度も能力を使った。
レイが喜ぶから。
それだけで良かった。
◇
カイが八歳になった。
今度はレイが能力に目覚めた。
右手から放たれる。
1ミリの光線。
誰も興味を示さなかった。
弱そう。
地味。
それだけ。
だが。
カイは違った。
能力を見た瞬間。
自分の鉄壁を出した。
光線が当たる。
カンッ。
鉄壁がわずかにへこんだ。
カイは目を見開く。
すごい。
もし。
もしこの能力を鍛え続けたら。
世界を変えられるかもしれない。
カイはわくわくした。
それから。
レイへ能力を教えるようになった。
毎日。
毎日。
一緒に。
だが。
それを快く思わない人間がいた。
母だった。
レイがカイになついている。
それが気に入らなかった。
だから。
母は決断した。
カイを。
国へ売ることを。
兵士として。
八歳の子供を。
◇
兵士の寮。
そこが新しい家だった。
誰も歓迎しない。
黄色い髪。
八歳。
格好のいじめ対象だった。
「おい」
「ガキ」
「飲み物持ってこい」
毎日だった。
蹴られる。
殴られる。
荷物を持たされる。
笑われる。
その中心にいたのが。
ボルクだった。
ガタイの良い男。
兵士として活躍している。
カイを見つけては。
面白そうにいじめた。
来る日も。
来る日も。
ずっと。
◇
カイが十歳になった。
事件が起きる。
訓練試合。
相手は。
ボルク。
周囲には大量の兵士がいた。
全員。
二人の関係を知っている。
だから。
見世物だった。
誰も止めない。
誰も助けない。
ただ笑っている。
ボルクが笑う。
「なぁカイ」
肩を回す。
「これは訓練だからな」
「ケガしても仕方ないよなぁ?」
周囲も笑う。
確かに。
訓練で怪我は起こる。
だが。
故意は処分の対象になる。
しかし。
この男がそんなことを守るはずがない。
教官が手を上げる。
「開始!!」
カイが能力を発動する。
薄い鉄壁が。
正面へ出現する。
防がなければ。
とにかく。
生き残らなければ。
その時。
ボルクが能力を使った。
能力『指突』
指が針のように鋭くなる。
それが。
鉄壁へ叩き込まれた。
バキィッ!!
鉄壁が割れる。
一撃だった。
勢いは止まらない。
指が迫る。
ボルクが笑う。
「もう飽きたんだわお前」
殺意のこもった目。
「あばよ」
「ガキんちょ」
死ぬ。
カイは理解した。
人生。
理不尽だった。
母に愛されなかった。
売られた。
いじめられた。
唯一愛した妹とも離れ離れ。
そして。
今。
殺される。
なんだったんだろうな。
俺の人生。
理不尽。
理不尽。
理不尽。
もし。
力があれば。
理不尽を。
ぶっ壊せるのに。
その瞬間だった。
身体の奥から。
力が溢れ出した。
熱い。
鉄より熱い何か。
カイは無意識に能力を発動した。
ボルクの左右。
分厚い鉄壁が出現する。
「なんだ?」
ボルクが振り向く。
だが。
遅かった。
グシャッ。
二枚の鉄壁が閉じる。
肉が潰れる。
骨が砕ける。
絶叫すら出なかった。
周囲が静まり返る。
誰も動かない。
そして。
鉄壁が消えた。
バタン。
何かが落ちる。
それは。
人だったもの。
ボルクだった。
身体はほぼ平面になっていた。
血が広がる。
誰も声を出せない。
カイも。
ただ立ち尽くしていた。
自分の手を見る。
震えている。
人を。
殺した。
だが。
不思議だった。
恐怖より先に。
別の感情があった。
胸の奥に。
小さな炎が灯る。
理不尽を。
壊した。
初めて。
自分の力で。
その日から。
カイの人生は。
大きく変わり始めた。
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