第96話 博打
「はぁ……はぁ……」
テオが肩で息をする。
全身が痛い。
身体の内側が焼けるようだった。
覚醒していなければ。
準備をしていなければ。
間違いなく死んでいた。
あの連中は異常だ。
そう思ったその時。
ブワァン
空間が裂けた。
テオの表情が険しくなる。
裂け目の中から現れたのは。
アベル。
ポール。
ネロ。
三人だった。
「まぁ……」
「そう簡単にはいかねぇか」
テオが呟く。
アベルが静かに言う。
「恐ろしいな、貴様」
ポールも顔をしかめる。
ネロは雑音混じりに呟く。
「間一髪だった」
そして。
ポールが前へ出る。
「だが!!」
「次はこちらの番だ!!」
ポールが構える。
ネロが能力を使う。
周囲の音が消える。
風の音も。
機械の音も。
何も聞こえない。
完全な無音。
アベルはすぐに逃げられるよう空間を準備する。
恐らく。
さっきの攻撃でテオの力は尽きた。
だが。
念には念を入れる。
そして。
無音の世界で。
空から大量のミサイルが降り注ぐ。
テオは空を見上げた。
「もうちょっと頑張らないとな」
誰にも聞こえない。
その言葉と共に。
ミサイルが落下する。
だが。
次の瞬間。
ポールの目が見開いた。
「なんだと!?」
ミサイルが曲がる。
テオへ落ちるはずだった軌道が。
捻じ曲がる。
別方向へ逸れる。
電気だった。
周囲を覆う莫大な電流。
それがミサイルへ干渉していた。
まだ。
残っていた。
テオの体内には。
五十万ボルトの残滓が。
ドガガガガガン!!
ミサイルが周囲へ着弾する。
爆煙が広がる。
だが。
テオは無傷だった。
アベルの顔色が変わる。
まずい。
こいつを生かして帰すわけにはいかない。
能力が知られる。
名前が知られる。
それだけは避けなければならない。
その時だった。
「はぁ……」
「はぁ……」
テオが膝をつく。
限界。
いくら覚醒したとはいえ。
五十万ボルトを身体に取り込むなど。
本来あり得ない。
肉体は悲鳴を上げていた。
ポールが笑う。
「終わりだな!!」
拳を合わせる。
次の爆撃で終わる。
テオは小さく呟く。
「ここまでか……」
そして。
叫んだ。
「ダッシュ!!!」
その瞬間。
テオの姿が消えた。
「なに!?」
アベルが叫ぶ。
ネロも固まる。
ポールも目を見開く。
ほんの一瞬だけ見えた。
男だった。
一人の男が。
テオを担ぎ。
凄まじい速度で走り去っていく。
テオが呼んだ名前。
ダッシュ。
能力ランキング第75位。
アベルの顔色が変わる。
そう。
本来。
彼らは第74位のマイトより先に。
ダッシュを狙っていた。
だが。
どこにも見つからなかった。
だから後回しにした。
そして。
第74位。
第71位へと移った。
「何故あの男がいる!!」
アベルが叫ぶ。
だが。
もう遅い。
追いつけない。
テオは救出された。
そして。
自分たちの情報は知られた。
グリッチにとって。
初めて計画が崩された。
◇
ダッシュが一直線にたどり着いた先。
そこは。
能力ランキング第8位。
ノクリアの国だった。
城へ入る。
ノクリアが玉座に座っていた。
ダッシュとテオが前へ出る。
すぐに報告が行われた。
ノクリアは二人を見る。
そして。
口元を緩めた。
「さすがだな」
ダッシュが少し嬉しそうな顔をする。
ダッシュは。
ノクリアの元弟子だった。
ノクリアが聞く。
「だが」
「どうやったんだ?」
ダッシュが一歩前へ出る。
「我々は考えました」
「有利なことと不利なことを」
ノクリアが頷く。
「ほう?」
ダッシュは続ける。
「有利なことは」
「ランキング下位から順番に狙われることです」
「つまり」
「狙わせることができる」
「逆に不利なことは」
「敵の数も能力も分からないことでした」
「だから暴く必要があった」
ノクリアは黙って聞く。
ダッシュがテオを見る。
「そこで」
「テオに協力を頼みました」
テオが苦笑する。
「最初は驚いたよ」
「一緒に敵を暴こうなんてな」
ダッシュは以前から気付いていた。
テオは。
第71位の器じゃない。
本気で戦っていないだけだと。
ダッシュが説明を続ける。
「提案したのは」
「俺を電気で仮死状態にすることでした」
ノクリアが眉を上げる。
ダッシュは頷く。
「そして」
「テオが敵の能力を全部引き出す」
「その後」
「俺が救出する」
ノクリアが聞く。
「そんな博打に」
「何故乗った?」
テオが笑う。
そして。
ダッシュを見る。
「こいつが言ったんだ」
少し照れながら。
「俺は直線なら誰も追いつけない」
「ノクリアより速いってな」
一瞬。
静寂。
そして。
「はっはっはっはっはっは!!」
ノクリアが大声で笑った。
ダッシュが赤くなる。
ノクリアは笑いながら言う。
「お前を弟子から外して正解だったよ」
ダッシュがムッとする。
だが。
ノクリアはすぐ真面目な顔になった。
二人を見る。
「ダッシュ」
「テオ」
静かな声。
「本当によくやった」
二人が頭を下げる。
そして去っていった。
彼らの功績は大きかった。
アベル。
能力『別空間』
ネロ。
能力『音支配』
ポール。
能力『超爆撃』
遂に。
三人の。
名前と能力が割れた。




