第94話 保護
数日後。
クロエが目を覚ました。
見慣れない天井。
見慣れない部屋。
そして。
周囲には人がいた。
「目を覚ました!」
フォーサが笑う。
「やりましたね!!」
マッドが大喜びする。
ミントも胸を撫で下ろす。
レイも微笑んだ。
クロエはしばらく呆然としていた。
そして。
小さく息を吐く。
「生きてるのね」
その言葉に全員が笑った。
クロエは身体を起こす。
まだ痛みは残る。
だが動ける。
そして。
壁際にもたれ掛かっている男を見る。
ディオンだった。
クロエの目が細くなる。
「素直に礼を言うわ」
少しだけ頭を下げる。
だが。
すぐに表情が変わる。
安堵ではない。
警戒。
「それで」
クロエが言う。
「最強の無能力者様が」
「なぜディバイドを助けたの?」
部屋の空気が少し張り詰める。
ディオンはしばらく黙る。
そして。
「大広間で話そうか」
そう告げた。
◇
城の中。
レイ達は歩いていた。
豪華だった。
今まで見たどの城よりも。
床は磨き上げられ。
壁には巨大な絵画。
天井には豪華な装飾。
「すごい……」
ミントが思わず呟く。
フォーサも目を輝かせていた。
レイとマッドも見惚れる。
そして。
ディオンが立ち止まる。
「この部屋だ」
巨大な扉。
兵士が開く。
ギギギギ。
重い音。
中は大広間だった。
長い机。
巨大な空間。
そして。
三人の男が立っている。
一人は筋骨隆々。
一人は身体から電気を放っている。
もう一人は妙な笑顔を浮かべていた。
顔が溶けている。
ディオンは当然のように席へ座る。
レイ達も向かい側へ座った。
ディオンが口を開く。
「じゃあ説明しよう」
全員の視線が集まる。
「俺たちが用があったのは」
ディオンは指差した。
「お前だ」
レイ。
レイが目を見開く。
「私……?」
「そうだ」
ディオンは頷く。
「国王からの命令でな」
レイ達が驚く。
マッドが聞く。
「あなたが王じゃないんですか?」
ディオンは首を振った。
「俺は王じゃない」
第11位より上の可能性。
つまり。
最上位の国の可能性がある。
ディオンが続ける。
「お前を助けに行ったら」
「仲間らしき奴が死にかけていたから」
クロエを見る。
「助けることにした」
クロエが小さく笑う。
なるほど。
自分はついでだったらしい。
そして。
当然の質問をする。
「じゃあ私は殺すのかしら?」
ディオンを見る。
ディバイド。
今や世界中から追われる組織。
ここも例外ではないはずだ。
しかし。
ディオンは即答した。
「いや」
「それは保留中だ」
クロエの眉が動く。
ディオンが続ける。
「王が不在でな」
少し間を置く。
そして。
「俺個人としては」
「殺す必要はないと思っている」
クロエの目に少しだけ光が戻る。
だが。
「ディバイドは救うべきじゃねぇ!!」
机を叩く音。
筋骨隆々の男だった。
「この国が狙われちまうぜ!!!!」
怒鳴る。
すると。
電気を纏う男も言った。
「ふしゅー」
「殺すべきだ」
バチバチ。
電気が弾ける。
クロエの表情が険しくなる。
すると。
最後の男が手を挙げた。
「僕はディオンさんに従うべきかとぉぉ」
妙な語尾だった。
空気が少し緩む。
ディオンはため息を吐いた。
「まぁ」
「こんな感じで意見は割れている」
そして。
クロエを見る。
「安心しろ」
「王の決断が出るまでは」
「俺が守る」
静かな声だった。
だが。
強かった。
フォーサが思わず呟く。
「かっこいい……」
レイが苦笑する。
クロエも少しだけ笑った。
「じゃあ」
「とりあえずお言葉に甘えるわ」
その言葉を聞いて。
マッドはなぜかムッとしていた。
◇
別空間。
水色の世界。
グリッチは休息していた。
クリアの回復待ち。
それだけではない。
連戦による疲労もあった。
モルドが笑う。
「思ったより根性ないな」
アベルが眉をひそめる。
「黙れモルド」
「我々は慎重なんだ」
自分たちの名前と能力はまだ割れていない。
レイ達はグリッチの情報を流していなかった。
というより、流す手段を持ち合わせていなかった。
しかし。
アベルは焦っていた。
世界は予想以上。
第13位イザベル。
『精神侵食』
あの攻撃は危険だった。
そして。
光線を放つ少女。
ネロが気づかなければ。
空間から出た瞬間死んでいた。
さらに。
第74位マイト。
あれだけ有利な状況で。
クリアはやられた。
想定より遥かに手強い。
その時。
ネロが口を開いた。
「情報が二つ入った」
ネロは情報収集のスペシャリストだった。
別空間を通じて音を拾うことができる。
アベルと連携すれば。
相手に一切気付かれることなく会話を聞ける。
その能力を利用して。
ディバイドの会話を拾い。
ディバイドの正体を暴いた。
全員が見る。
「一つ」
「下位能力者が次々に亡命している」
「第7位と第8位の元にな」
アベルが頷く。
予想通りだった。
ネロが続ける。
「二つ」
「ディバイド幹部ヴァイスがランキング者を狩っている」
アベルの表情が変わる。
「あの第40位が……」
予想外だった。
守りに入ると思っていた。
だが違う。
攻めている。
モルドが笑う。
「面白い」
立ち上がる。
「俺たちも次だ」
アベルが止める。
「だから待てと……」
そこで。
モルドが睨んだ。
空気が変わる。
「……あ?」
低い声。
「俺がやるって言ったら」
「やるんだよ」
沈黙。
アベルは数秒黙る。
そして。
ため息を吐いた。
「……分かった」
モルドが笑う。
アベルが続ける。
「ただし」
「クリアは休ませる」
モルドは興味なさそうに言った。
「好きにしろ」
アベルは嫌な予感を覚えていた。
だが。
止められない。
この選択が。
この判断が。
後に大きな過ちとなることを。
彼らはまだ知らなかった。




