第91話 グリッチの誕生
アベルが話し始める。
「俺たち三人は」
「ある広大な国で生まれた」
モルドは黙って聞く。
アベルは続けた。
「平和な国だった」
「戦争もない」
「飢えもない」
「誰もが笑っていた」
本当に平和だった。
少なくとも。
あの日までは。
◇
幼いアベル。
幼いネロ。
幼いポール。
三人は森の中にいた。
ネロが笑う。
「聞こえる!」
鳥の羽音。
遠くの川。
虫の声。
全て聞こえる。
ポールは空へ向かって小さなミサイルを放った。
ドン。
小さな爆発。
アベルは空間に裂け目を作る。
子供の遊び。
それだけだった。
だが。
遊びは次第に変わる。
競争になった。
「もっと遠くの音聞けるぞ!」
「俺はもっと大きく爆発できる!」
「俺はもっと遠くへ繋げる!」
互いを煽る。
互いを高める。
誰も止めない。
止める人間がいなかった。
国が広すぎた。
森も広かった。
三人は。
誰にも知られないまま。
怪物になっていった。
そして。
事件が起きた。
ネロが街へ行った日だった。
人とぶつかった。
ただそれだけ。
だが相手は。
他国の高官だった。
護衛が怒鳴る。
ネロは怖くなった。
逃げた。
足音が聞こえる。
追われる。
怖い。
だから。
能力を使った。
周囲の音を全て消した。
国から音が消える。
護衛は混乱する。
高官は青ざめる。
そして。
言った。
「あのガキ、最高の暗殺者になるぞ」
それが始まりだった。
高官はネロを捕らえた。
そして、多額の金でネロを買収した。
森の中。
アベルとポールが顔を合わせる。
「助けるぞ」
アベルの決意の声。
ポールが頷く。
アベルが裂け目を開く。
初めての長距離転移。
経験などない。
ブワァン
適当に開いた。
それが。
最悪だった。
裂け目から出た先。
そこは城だった。
兵士だらけの。
敵の本拠地だった。
敵は驚く。
だが。
「捕まえろ!!」
二人は押さえつけられる。
縄。
鎖。
暴力。
子供には十分すぎた。
そして。
彼らは聞いた。
「利用できるな」
「音を消せる能力」
「空間能力」
「国のために使わせろ」
そのとき。
ポールの心が揺れる。
怖い。
苦しい。
悔しい。
そして。
「おおおおぉぉぉぉ!!!!」
ポールが暴走した。
ミサイルが降り注ぐ。
ドゴォォォォォン!!!
城が吹き飛ぶ。
兵士が死ぬ。
貴族が死ぬ。
高官が死ぬ。
火。
煙。
悲鳴。
全てが消える。
「ネロ、大丈夫か?」
アベルが聞く。
ネロが答える。
「大丈夫」
「それより、どうしよう?」
ネロがアベルに聞く。
「……悪いのは誰だと思う?」
アベルが逆に聞く。
ネロが考える。
そして冷たい目で言った。
「人間だ」
ネロが答える。
ポールが笑う。
「じゃあ殺そう」
その言葉の後。
ネロが音を消し。
アベルが空間で移動させ。
ポールが各地で爆撃を繰り返した。
その日だけで。
一国が滅んだ。
子供三人によって。
◇
三人は帰国した。
自分たちの国へ。
きっと。
心配してくれると思った。
家族なら。
親なら。
そう思った。
だが。
違った。
「なんてことをした!!」
「同盟国だぞ!!」
「我々まで終わる!!」
誰も心配しない。
誰も抱きしめない。
誰も守らない。
守ろうとしたのは。
自分たちだけだった。
父親。
母親。
兄弟。
親戚。
王。
大臣。
兵士。
国民。
全員が敵だった。
「差し出せ!!」
「責任を取らせろ!!」
「処刑しろ!!」
アベルは思った。
あぁ。
人は。
ゴミなんだ。
その夜。
自国も滅んだ。
そして。
三人は消えた。
世界から。
◇
静寂。
誰も喋らない。
アベルが言う。
「俺たちは理解した」
「人は性悪だ」
「生まれながらのゴミだ」
「だから排除する」
モルドが笑う。
狂気の笑み。
「面白い」
アベルは手を前に突き出す。
「まずは」
「世界の頂点である能力ランキング者から」
拳を握る。
「潰す!!」




