第84話 姉の願い
アストラに案内され。
レイたちは近くの広場へ移動した。
誰もいない広場。
木陰のベンチ。
アストラは適当に腰掛ける。
「その様子だとー」
アストラがレイたちを見る。
「ペーパーちゃんは死んじゃったのかな?」
その瞬間。
「何だと!?」
マッドが立ち上がった。
怒りで拳が震えている。
「そもそもあなたがディバイドなんて作るから!!」
言い終わる前だった。
ゾワッ。
とんでもない殺気。
空気が凍る。
マッドの顔色が変わる。
言葉が喉で止まった。
アストラが睨んでいる。
笑顔のまま。
だが。
目だけが笑っていなかった。
「それはねー」
「責任転換って言うんだよ」
マッドは動けなかった。
全身が硬直する。
レイが前へ出る。
「私たちより」
「あなたのほうがやばそうね」
アストラが首を傾げる。
「なんで分かるのー?」
レイは即答した。
「普段のあなたなら」
「そんな不用意な言葉は言わない」
マッドたちが驚く。
アストラが指を差した。
「成長したねーレイちゃん☆」
嬉しそうだった。
だが。
どこか無理をしているようにも見える。
レイが聞く。
「それで?」
「どうしたの?」
アストラが一枚の紙を差し出した。
「これー」
レイが受け取る。
そして。
全員の顔色が変わった。
「え……?」
指名手配書。
そこには。
第4位アストラ
第9位モルド
第19位クロエ
第40位ヴァイス
第78位ヴァイン
そう書かれていた。
「なんでモルドがいるの!?」
レイが叫ぶ。
アストラが肩をすくめる。
「彼はディバイドじゃないしー」
「そもそもレイちゃんたちが倒したしー」
「幹部全員の正体が割れてるしー」
自分の頭を軽く叩く。
「訳わかんないぞ☆」
明らかに無理をしていた。
ミントが紙を見ながら呟く。
「指名手配……」
顔が青い。
「これじゃディバイドは……」
レイが聞く。
「そんなにまずいの?」
ミントが答えた。
「簡単に言えば……」
「全世界から命を狙われ続けるということ」
レイたちが黙る。
ランキング者。
一般人。
賞金目当ての傭兵。
全員が敵になる。
安息の地はどこにもない。
アストラが笑う。
「さっきもねー」
「第43位に襲われちゃった☆」
レイたちが驚く。
「まー、瞬殺だけどね☆」
さすが第4位。
アストラが真面目な顔になる。
「それでー」
「本題なんだけどー」
空気が変わる。
アストラは立ち上がった。
そして。
両手を合わせる。
頭を下げた。
「ノーランクのみんなにお願い!」
レイたちが目を見開く。
アストラが。
頭を下げている。
「クロエを守って!!」
静寂。
レイが聞く。
「どういうこと?」
第19位クロエ。
強い。
頭も切れる。
自分たちが守る必要などない。
そう思った。
だが。
アストラは真顔だった。
「他の二人はともかく」
「クロエは最上位に狙われる可能性が高いの」
レイたちは理解する。
第40位。
第78位。
その辺りならまだいい。
だが。
第19位。
潰すなら最上位が来る。
レイが吐き捨てる。
「私たちがクロエを守る義理はない」
アストラは黙る。
レイは続けた。
「あなたたちはマリンを殺した」
「フォーサの心に傷をつけた」
「敵よ」
空気が重くなる。
アストラは何も言わない。
その時だった。
「レイ」
フォーサが口を開く。
レイが振り向く。
「ありがとう」
フォーサは少し笑った。
「でも大丈夫」
「それより今は」
「レイにとって」
「私たちにとって」
「ノーランクにとって」
「どうするべきか考えて」
レイは驚いた。
フォーサは。
冷静だった。
自分たちにとって。
どうするべきか。
レイは考える。
もし最上位が現れるなら。
クロエと共闘できる。
そして。
能力ランキング制度を壊すには。
いずれ最上位を倒さなければならない。
逃げていても何も変わらない。
レイはアストラを見る。
「アストラ」
「なーに?」
「最上位は誰が来ると思う?」
アストラは少し考える。
そして。
「たぶんだけどー」
「第6位」
レイの表情が凍る。
能力ランキング第6位。
ネメシス。
能力。
『重力操作』
脳裏に蘇る。
あの時の言葉。
「平常通りだよ」
ランキング下位が何人死のうと。
何も感じない男。
さらに。
こじつけで人を殺す。
外道。
レイは拳を握った。
心は決まった。
「いいわ」
アストラを見る。
「クロエの場所を教えて」
アストラが少しだけ目を見開く。
そして。
優しく笑った。
「よろしくね」
その顔は。
いつものふざけた笑顔じゃなかった。
ディバイドのリーダーでもなかった。
ただ。
妹を心配する姉の顔だった。




