第75話 答え
レイは監獄の中を歩いていた。
一人で。
静かな廊下を。
ゆっくりと。
考えながら。
モルド。
能力ランキング第9位。
あの男は残酷だ。
間違いなく。
だが。
兵士たちは救われていた。
シルヴィアも救われていた。
被害者遺族たちも。
モルドへ感謝しているだろう。
そして。
ふと思う。
能力ランキング制度も同じではないのか。
救われている人がいる。
支えられている人がいる。
なら。
何が正義で。
何が悪なんだ。
レイは分からなくなっていた。
自分の正義が。
揺らいでいた。
その時だった。
コン。
コン。
弱々しい音が聞こえた。
レイが立ち止まる。
音のした方を見る。
廊下の奥。
普段使われていないような扉。
こんな場所があったのか。
レイは近付く。
そして。
ゆっくり扉を開けた。
ギィ。
その瞬間。
「うっ……」
激しい異臭が襲う。
思わず口元を押さえた。
腐敗臭。
血の臭い。
吐き気を催すような臭いだった。
レイは中を見る。
そして。
凍り付いた。
「……レイ」
弱々しい声。
床に倒れている人影。
レイは目を見開く。
「アン!?」
慌てて駆け寄る。
抱き起こす。
アンだった。
痩せ細っている。
顔色も悪い。
呼吸も浅い。
レイは震える。
「アン!!」
「どうしてこんなところに!?」
アンは力なく笑った。
「私……」
かすれた声。
「顔が悪いって」
「モルド様に捨てられちゃったの」
レイの目が見開かれる。
そんな理由で。
そんな理由だけで。
アンは笑った。
「ふふ……」
弱々しく。
「レイの言うこと」
「聞いてればよかった」
レイは言葉を失う。
アンがいなくなってから。
数日が経っていた。
どうやって生きていた。
そう思い。
部屋の奥を見る。
そこには。
大量の死体。
積み重なっていた。
そして。
その一部には。
食い千切られた跡。
レイの身体が震える。
まさか。
アンが小さく笑う。
レイの視線に気付いたのだろう。
「なんとかね……」
「生きようとしたの」
涙が出そうになる。
アンは続ける。
「でも……」
力が抜ける。
「もう限界……」
レイは首を振る。
「待って!!」
声を上げる。
「今すぐ助けるから!!」
「医者を呼ぶ!!」
「だから……」
その時。
アンがレイの手を掴んだ。
弱い力だった。
でも。
離れなかった。
アンは首を振る。
「もう……」
「助からないよ……」
レイの目から涙が溢れる。
アンは静かに言った。
「ありがとう」
レイを見る。
「初めて」
「人に心配されて」
そして。
笑った。
「うれしかった……」
その言葉を最後に。
アンの力が抜ける。
手が落ちる。
呼吸が止まる。
レイは固まった。
◇
何分経ったか分からない。
ただ。
アンを抱いていた。
レイの腕の中で。
アンは死んだ。
涙が止まらない。
アンは生きようとした。
最後まで。
必死に。
それでも。
死んだ。
レイはアンをそっと置き。
ゆっくり立ち上がる。
涙を拭う。
そして。
決意した。
能力ランキング第9位。
モルド。
あいつは。
正義なんかじゃない。
レイは作戦を開始した。
◇
数日後。
レイは獄長室の前へ来ていた。
迷いはない。
そして。
扉を強く開く。
バン!!
モルドが振り返る。
「ん?」
そして。
笑った。
「どうやら」
椅子にもたれ掛かる。
「評価は決まったようだな」
レイはモルドを真っ直ぐ見据える。
「あなたは……悪だ」
レイの静かな声だった。
だが。
強い意志があった。
モルドは少し笑う。
「理由を聞こうか」
レイは答える。
「確かにあなたは」
「女たちに身分を与えた」
「兵士たちの復讐を果たした」
「極悪な囚人も始末している」
モルドは黙って聞く。
レイは続ける。
「でも」
「それは正しいようで」
「全部おかしい」
モルドが眉を上げる。
「ほう?」
レイは止まらない。
「女たちに身分を与えている」
「でもそれは全部あなたの裁量」
「自由なんてない」
「兵士たちだって」
「復讐に満足して」
「あなたへ従うようになっただけ」
「解放する気なんてない」
モルドは無言だった。
「囚人もそう」
レイの声が強くなる。
「反省させて処罰するだけでいい」
「なのにあなたは」
「快楽として、そして兵士を増やすために」
「利用している」
静寂。
そして。
レイは叫んだ。
「つまり!!」
モルドを指差す。
「あなたは所詮!!」
「快楽殺人者ってことよ!!」
部屋に声が響く。
だが。
モルドは怒らない。
ただ。
静かに見ている。
レイは叫ぶ。
「マッド!!」
その瞬間。
扉が開いた。
「はい!!」
マッドが飛び込んでくる。
「レイさん!!」
モルドが少しだけ驚く。
レイが叫ぶ。
「今よ!!」
マッドが床に手をつく。
「くらえ!!」
床が揺れる。
モルドの足元が泥へ変わる。
そして。
泥の腕が伸びる。
モルドの両足を掴んだ。
動きを封じる。
レイは右手を向ける。
光が集まる。
「あなたを悪とみなし!!」
「殺す!!」
モルドを見る。
だが。
モルドは笑った。
不敵に。
そして。
小さく呟く。
「残念だ」
「気に入ったのにな」
その瞬間。
バシュッ!
光線が放たれた。
真っ直ぐ。
能力ランキング第9位。
モルドへ向かって。




