第74話 裁き
ランク0になってから数日後。
レイは兵士から呼び出された。
モルドが庭へ来いと言っているらしい。
レイは警戒しながら向かう。
そして。
庭へ到着した。
広い芝生。
整えられた花壇。
美しい景色。
その中央で。
モルドが椅子に腰掛けていた。
「来たか」
モルドが笑う。
レイは無言で近付く。
すると。
モルドが隣を指差した。
「俺の隣に来い」
レイは少し迷った。
だが。
結局言われた通りに座る。
その瞬間。
背後から鋭い視線を感じた。
振り返る。
シルヴィアだった。
明らかにレイを睨んでいる。
モルドが笑う。
「今から面白いものを見せてやる」
レイの警戒心が強まる。
面白い。
モルドの言う面白いは。
悪い予感しかしない。
すると。
庭の門が開く。
数十人の囚人たちが連れてこられた。
皆。
手枷はない。
だが。
表情は暗い。
そして。
兵士たちが大量のナイフを地面へばらまいた。
カラン。
カラン。
無数の刃が芝生の上へ転がる。
囚人たちが困惑する。
モルドが立ち上がった。
そして。
大きな声で言う。
「よし、お前ら」
全員が見る。
「今から殺し合いをしろ」
ざわつく囚人たち。
モルドは続ける。
「最後まで生き残った奴は解放してやる」
囚人たちの目が変わる。
希望。
それが生まれた。
だが。
モルドは指を立てる。
「ただし」
「使うのはそのナイフだけだ」
囚人たちの視線が一斉に落ちる。
ナイフ。
それだけ。
そして。
モルドは笑った。
「始めろ」
その瞬間だった。
怒号が響く。
囚人たちが一斉に動いた。
ナイフを奪い合う。
殴る。
蹴る。
刺す。
悲鳴。
怒鳴り声。
血飛沫。
地獄だった。
レイは立ち上がれない。
ただ。
見ていることしかできない。
◇
数十分後。
決着がついた。
生き残ったのは一人。
血だらけの男だった。
男は両手を上げる。
「やったぞ!!」
涙を流しながら叫ぶ。
「生き残った!!」
その姿を見て。
モルドが拍手する。
パチ。
パチ。
パチ。
ゆっくり近付く。
「よくやった」
男が笑う。
救われた。
そう思ったのだろう。
だが。
モルドは首を振った。
「残念だ」
男が固まる。
「失格だ」
沈黙。
男が聞く。
「……なんでだ?」
モルドは即答した。
「お前」
足を指差す。
「さっき蹴ってただろ」
男が目を見開く。
モルドは冷たい声で続ける。
「俺はナイフしか使うなと言った」
「つまりルール違反だ」
男の顔が怒りで歪む。
「ふざけんな!!」
叫ぶ。
「全員殴ったり蹴ったりしてただろ!!」
当然だった。
こんな状況で。
誰がそんな細かいルールを守る。
だが。
モルドは平然としている。
「俺のルールに従わなかった」
「だから牢屋に戻れ」
男の肩が震える。
怒り。
憎しみ。
絶望。
全てが混ざる。
そして。
男は叫んだ。
「調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
その瞬間。
男の右腕が巨大化した。
能力者。
レイが目を見開く。
巨大な拳が振り抜かれる。
ドゴォォォォン!!
モルドへ直撃。
モルドの身体が吹き飛ぶ。
壁へ激突した。
凄まじい威力だった。
レイも思わず息を呑む。
だが。
次の瞬間。
「いてぇ!!」
悲鳴を上げたのは囚人だった。
男が腹を押さえる。
そこには。
ナイフが深く刺さっていた。
いつの間に。
レイが目を見開く。
すると。
砂煙の中から。
モルドが歩いてくる。
無傷で。
服もほとんど乱れていない。
男が絶望する。
モルドは言った。
「なぁ」
「お前は」
囚人を見下ろす。
「被害者に理不尽を強いたことはないのか?」
男が言葉を失う。
「お前たちは悪だ」
「だから俺が殺してやる」
その瞬間。
無数のナイフが放たれる。
囚人は逃げようとした。
だが。
動けない。
腹へ刺さったナイフが邪魔をする。
一本。
二本。
三本。
次々と刺さる。
腕。
肩。
足。
胸。
そして。
最後の一本が喉を貫いた。
男は崩れ落ちる。
動かない。
死んだ。
静寂。
モルドは死体を一瞥する。
興味もなさそうに。
そして。
振り返った。
レイを見る。
「どうだ?」
少し笑う。
「そろそろ判断できたか?」
レイは黙る。
モルドは誇らしそうだった。
自分の正しさを。
疑っていない顔だった。
レイの胸は重い。
囚人は確かに悪人だった。
被害者もいた。
兵士たちも救われていた。
モルドは。
本当に正義なのかもしれない。
それなのに。
目の前で行われた光景は。
あまりにも残酷だった。
レイは答えられない。
ただ。
黙ってモルドを見つめることしかできなかった。




