第73話 正義のモルド
レイは自由になったことで。
監獄内を散策していた。
歩きながら気付く。
この監獄は妙に静かだった。
囚人がいる。
兵士もいる。
それなのに。
騒がしさがない。
怒鳴り声も。
笑い声も。
ほとんど聞こえない。
不気味なほど統制されている。
兵士たちは。
どういう気持ちでここにいるのだろう。
レイは気になった。
そして。
兵士たちの食堂へ向かうことにした。
◇
食堂は至って普通だった。
木の机。
木の椅子。
食事を取る兵士たち。
どこの町にもありそうな光景。
だが。
一つだけ違う。
誰も喋っていない。
全員が黙々と食事をしていた。
レイは周囲を見渡す。
そして。
近くの男へ声をかけた。
「あなた」
男が顔を上げる。
「話しかけてもいい?」
男は少し驚いた。
そして。
「お前……」
「ランク0か?」
レイは頷く。
男は少し考える。
そして。
椅子を指差した。
「いいだろう」
「そこに座れ」
レイは素直に座った。
男が聞く。
「それで?」
「話はなんだ?」
レイは真っ直ぐ男を見る。
「あなたは」
「なんでここで兵士をしているの?」
男は少し目を閉じた。
そして。
ゆっくり話し始める。
「俺はな」
遠くを見る。
「昔」
「妻を殺されたんだ」
レイは黙って聞く。
男は続けた。
「毎日が地獄だった」
「復讐したかった」
「でも犯人は捕まらなかった」
拳を握る。
「そんな時だ」
「モルド様から手紙が届いた」
レイが目を細める。
男は笑う。
「お前の妻を殺した人間が監獄にいる」
「処刑するから見に来い」
「と書いてあった」
レイが息を呑む。
「そして処刑の日」
「モルド様は」
「妻を殺した囚人を逆さ吊りにした」
レイの表情が固まる。
「そして」
「苦しみ抜いたところで」
「頭にナイフを投げた」
「そしたら」
「頭がトマトのように破裂した」
レイは思わず口元を押さえる。
男はその反応を見て笑った。
「普通はそういう顔になるよな」
レイは何も言えない。
だが。
男は首を振る。
「でも俺は違った」
目を輝かせる。
「興奮した」
レイが驚く。
男は続ける。
「神様がいたんだって思った」
遠い目をする。
「妻を殺した奴が」
「苦しんで死んだ」
「それを見せてくれた」
男は微笑む。
「俺は救われた」
静かな声だった。
「だから」
「その日から兵士に志願した」
「モルド様のために働いている」
レイは戸惑う。
そして聞いた。
「もしかして……」
「ここの人たちも?」
男は頷く。
「大体そんな感じだ」
「家族を殺された奴」
「人生を壊された奴」
「みんなモルド様に救われた」
レイは黙る。
何も言えなかった。
◇
レイは兵士へ頼み込み。
マッドとの面会を取り付けた。
ランク0。
その権限は想像以上だった。
全ての願いが通る。
しばらくして。
牢獄の一室へ案内される。
そして。
扉が開いた。
「レイさーーーーーーん!!」
マッドが全力で走ってくる。
そして。
抱きつこうとした。
だが。
「くさっ!!」
レイが後ろへ飛び退く。
マッドが固まる。
「え?」
レイは鼻を押さえる。
「臭い!!」
マッドの顔が真っ青になる。
「そ、そんな……」
深刻なダメージを受けていた。
レイは少し申し訳なくなる。
「ごめん……」
「大変だったんだよね……」
マッドは肩を落とした。
二人は椅子へ座る。
改めて見る。
マッドの身体は変わっていた。
肩幅が広い。
腕も太い。
胸板も厚い。
だが。
顔はそのまま。
丸眼鏡もそのまま。
違和感が凄かった。
レイは思わず笑う。
「マッド」
「あなた随分たくましくなったわね」
マッドは嬉しそうに胸を張る。
「はい!」
「ここ本当にやることがなくて!」
「ひたすら筋トレしてました!」
レイが笑う。
顔と身体のバランスがおかしかった。
だが。
少し安心した。
そして。
本題へ入る。
「マッド」
「何か分かったことはある?」
レイが聞く。
マッドは真剣な顔になる。
そして答えた。
「ある程度」
「囚人たちと仲良くなれました」
レイが頷く。
マッドは続ける。
「正直……」
少し迷う。
だが。
はっきり言った。
「どの囚人も」
「死んだ方がいいような連中です」
レイが驚く。
マッドは真っ直ぐだった。
「金のために人を殺した人」
「殺した相手をいたぶった人」
「生きたまま燃やした人」
「そんな奴ばかりです」
拳を握る。
「死んで当然です」
強い声だった。
レイは黙る。
シルヴィア。
兵士たち。
そして囚人たち。
見れば見るほど。
聞けば聞くほど。
能力ランキング第9位。
モルドは。
正義にしか見えなくなっていた。




