第69話 第9位との対面
レイは部屋へ案内された。
小さな部屋だった。
ベッドが二つ。
机が一つ。
窓には鉄格子。
レイが部屋を見回していると。
「あなた……」
後ろから声がした。
振り返る。
二十歳くらいの赤い髪の女性だった。
「さっき質問してた人?」
レイは頷く。
女性は少し笑った。
「すごいね」
「私は震えてるだけだったのに」
レイは肩をすくめる。
「別にすごくないわ」
女性は手を差し出した。
「私、アン」
「よろしくね」
レイも手を握る。
「……よろしく」
短い挨拶だった。
◇
それから数日。
レイたちは働かされた。
掃除。
洗濯。
食事の準備。
雑用ばかり。
モルドを見ることはない。
男たちを見ることもない。
ただ働く。
それだけだった。
これがランク6の生活。
レイはそう理解する。
だが。
ある日。
女たちが急に騒がしくなった。
走り回る。
慌てる。
空気が変わる。
アンが首を傾げる。
「何があったんだろう」
その時。
ランク1の女が現れる。
「みんな!」
鋭い声。
「整列して!」
全員が慌てて並ぶ。
そして。
「モルド様がお見えになるわ!」
レイの目が見開く。
モルド。
能力ランキング第9位。
能力『無傷』
ついに会える。
レイは背筋を伸ばした。
緊張が走る。
静寂。
カツ。
カツ。
足音が近付く。
女たちが息を呑む。
そして。
姿を現した。
レイは固まる。
あれ……?
普通だった。
本当に。
どこにでもいそうな青年。
特別大きいわけでもない。
特別怖いわけでもない。
周囲の女たちも少しだけ力が抜ける。
モルドは周囲を見る。
そして言った。
「新しい女はどれだ?」
ランク1の女が答える。
「こちらです」
モルドが歩いてくる。
レイたちの前へ。
一人ずつ見る。
品定めするように。
「そうかそうか」
軽い口調だった。
そして。
レイの前で止まる。
レイの心臓が跳ねる。
モルドがじっと見る。
「お前……」
レイの額に汗が浮かぶ。
狙いがばれたのか。
能力者だと気付いたのか。
だが。
モルドは首を傾げた。
「まぁいいか」
それだけだった。
そして。
そのまま歩き去る。
去り際。
振り返りもせず言った。
「どうか」
「良い子でいてくれ」
優しい声だった。
それだけ残して。
モルドは去っていく。
レイは呆然と立っていた。
正直。
第9位には見えなかった。
◇
マッドは毎日牢屋で過ごしていた。
特に何かをさせられるわけではない。
食事。
睡眠。
それだけ。
だから。
マッドは筋トレを続けていた。
腕立て伏せ。
腹筋。
スクワット。
少しでも強くなるために。
だが。
一つだけ。
恐ろしい時間があった。
定期時間外に。
兵士が来る時だ。
カツ。
カツ。
足音。
その瞬間。
囚人たちの顔色が変わる。
皆震える。
奥で足音が止まった。
兵士が言う。
「おい」
牢屋を見回す。
「今日はお前たちだ」
鉄格子が開く。
ガチャン。
すると。
一人の囚人が叫ぶ。
「やめてくれぇぇぇ!!」
必死だった。
だが。
兵士は不思議そうな顔をする。
「何故拒否をする?」
囚人たちが震える。
兵士は続ける。
「モルド様は」
「逃がすチャンスを与えてくださるのだぞ?」
嘘ではない。
モルドは逃亡の機会を与える。
だが。
誰一人逃げられない。
逃げ切る前に死ぬ。
それが現実だった。
それが。
この監獄のルールだった。
だが。
一人の囚人が飛び出した。
「ふざけんじゃねぇ!!」
全力で走る。
その瞬間。
シュッ。
何かが飛んだ。
「が……」
囚人の頭にナイフが突き刺さる。
そのまま倒れた。
沈黙。
兵士たちが慌てる。
「モルド様!!」
マッドは思わず鉄格子へ近付いた。
隙間から覗く。
そこにいた。
先ほどレイが見た男。
普通の青年。
モルドだった。
モルドは死体を見る。
そして。
少しだけ笑った。
「ちょうどよかった」
兵士たちが黙る。
モルドは言う。
「動く的を当てたかったんだ」
続けて兵に言う。
「今日はもういい」
「また暇になったら連れてこい」
兵士たちが頭を下げる。
「ははっ!」
モルドはそのまま去っていく。
マッドの背筋が冷える。
圧倒的な威圧感はない。
ネメシスのような恐怖もない。
アストラのような異質さもない。
だが。
確信した。
こいつは危険だ。
能力ランキング第9位。
モルド。
マッドは静かに待つ。
レイが動く時を。




