第68話 監獄
中へ入る。
錆びた鉄の通路。
高い天井。
重苦しい空気。
ガタガタ。
荷車の揺れる音だけが響いていた。
その時だった。
「ご苦労様」
一人の女が現れる。
綺麗な服。
派手な化粧。
手には大きい宝石が付いた指輪が六個。
まるで貴族のような見た目だった。
女は荷車を見る。
そして言う。
「女はこちらへ」
「囚人は奥へ」
兵士たちが動く。
レイはマッドを見る。
マッドもレイを見る。
言葉はない。
だが。
マッドは小さく頷いた。
覚悟を決めた目だった。
レイも頷き返す。
そして。
二人は別れた。
◇
レイは長い廊下を歩かされる。
やがて。
一つの大部屋へ案内された。
中には多くの女性たち。
皆。
暗い顔をしている。
すると。
先ほどの女が前へ出る。
「あなたたちはこれから」
「モルド様へ全てを捧げてもらうわ」
女たちがざわつく。
不安の声。
すすり泣き。
その瞬間。
女がナイフを取り出した。
そして。
一番騒いでいた女の首を刺す。
「ひっ……!」
悲鳴。
血が流れる。
全員が凍りつく。
女は真顔で言う。
「黙って聞きなさい」
誰も声を出せない。
女は続ける。
「モルド様の気分を害せば」
「その場で死ぬことになる」
静寂。
「逆に」
「気に入られれば」
自分の両手の指を見せる。
そこには指輪。
紫。
青。
赤。
黄。
白。
黒。
六色の宝石が埋め込まれていた。
どれも高級品だった。
女は誇らしげに言う。
「私のように権限を与えられます」
そして。
指輪を掲げる。
「ランクは六段階」
「あなたたちはランク6からスタートよ!」
ランク。
その言葉に。
レイは眉をひそめる。
ここでも。
ランキング。
順位。
世界のどこへ行っても。
同じだった。
女は続ける。
「ランク1を目指しなさい」
その時。
レイが手を挙げた。
周囲が驚く。
この空気で質問するのか。
そんな目だった。
女も少し驚いた。
だが。
興味深そうに笑う。
「なにかしら?」
レイは聞く。
「ランク1になれば」
「外へ出られるの?」
数秒の沈黙。
そして。
女は楽しそうに笑った。
「あなた」
「良いわねぇ」
レイを見る。
「でも残念」
笑顔のまま言う。
「ランク1になっても出られないわ」
レイの表情が変わる。
女は振り返る。
「頑張ってね」
そう言って去っていった。
部屋には沈黙だけが残る。
ランク1でも出られない。
つまり。
ここへ来た女は。
二度と外へ戻れない。
レイは静かに拳を握った。
◇
マッドは荷車の中で揺られていた。
怖くないわけじゃない。
だが。
周囲の屈強な男たちを見ても。
以前ほど恐怖を感じない。
当然だった。
この男たちは。
所詮見た目だけだ。
自分は本物と会った。
ギル。
クロエ。
ライゼン。
ネメシス。
アストラ。
本当の怪物を知っている。
だから。
少しだけ分かった。
自分は強くなっている。
精神的に。
そう思えた。
その時。
「降りろ!!」
兵士が怒鳴る。
囚人たちは次々と降ろされる。
マッドも続いた。
そこにあったのは。
巨大な牢獄。
鉄格子。
薄暗い通路。
異臭。
衛生管理などされていない。
汚かった。
兵士が言う。
「お前たちはこれから」
「この監獄で生きる」
兵士たちが笑う。
「そして」
「モルド様の気分で死ぬ」
「それだけだ」
囚人たちの顔色が変わる。
あまりにも理不尽な言葉。
つまり。
人権はない。
生死すら。
モルド次第。
その瞬間だった。
「いやだああああああ!!」
奥から悲鳴が響く。
マッドが振り向く。
誰かが叫んでいる。
だが。
兵士たちは誰も反応しない。
囚人たちも俯いたまま。
まるで。
当たり前のことのように。
悲鳴はしばらく続き。
そして。
突然止まった。
監獄には。
再び静寂だけが残った。
マッドは拳を握る。
この場所は。
想像以上に異常だった。




