第63話 依頼
レイは俯いていた。
拳を強く握る。
何も言えない。
反論できない。
自分の正義が揺らいでいることを。
自分自身が一番理解していた。
その時だった。
「さーて☆」
アストラが明るく笑う。
「レイちゃんをあんまりいじめちゃダメだよー!」
クロエの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「ちょっ!」
「やめてよアス姉!!」
クロエが慌てる。
レイたちは固まった。
「アス姉?」
マッドが呟く。
レイが思わず聞く。
「二人って……」
「姉妹なの?」
クロエがため息をつく。
「そうよ」
「私が妹」
親指でアストラを指す。
「こっちが姉」
全員がアストラを見る。
似ていない。
全く似ていない。
フォーサがぽつりと呟く。
「似てない……」
「よく言われるー☆」
アストラが笑った。
クロエはレイを見る。
少しだけ優しい目だった。
「だから」
「あなたの気持ちは分からなくもない」
レイが顔を上げる。
クロエは続けた。
「でもね」
「さっきも言ったけど」
「例外を作るほど正義は薄っぺらくなる」
静かな声。
だが重かった。
「現に」
「あなたは兄を殺すと言えなかった」
レイが唇を噛む。
クロエは三人を見る。
「その三人も」
「少なからず不信感を持ってるでしょ?」
レイも振り返る。
マッド。
フォーサ。
ミント。
三人とも何か言いたそうだった。
でも言えない。
そんな顔だった。
レイは目を伏せる。
胸が痛かった。
その時。
ペーパーの顔が浮かぶ。
去っていった仲間。
きっと。
あの時も。
こんな気持ちだったのかもしれない。
「まーレイちゃんはー」
アストラが笑う。
「もう少し色々頑張らないとねー☆」
レイは何も言い返せなかった。
完敗だった。
自分の正義が。
自分の覚悟が。
全く足りていなかった。
痛感する。
しばらく沈黙が流れた。
そして。
アストラが手を叩く。
パン。
「それはおいおい考えるとしてー!」
一気に空気が変わる。
「そろそろ本題いってみよー!!☆」
全員がアストラを見る。
アストラは椅子の上で立ち上がった。
「ディバイドはですねー」
「そろそろ動きづらくなってきましたー」
しょんぼりした顔。
だが演技なのは誰でも分かった。
「大合戦で仲間いっぱい死んじゃってー」
指を折る。
「最上位に目もつけられてー」
さらに折る。
「今めちゃくちゃ大変でーす」
全然困っているように見えない。
クロエが呆れた顔をする。
すると。
アストラが突然笑顔になる。
「そ・こ・で!!」
ビシッ。
レイを指差した。
「あなたたちの出番でーす!!」
レイが目を見開く。
「え?」
アストラは満面の笑み。
「ディバイドの代わりにランキング者を殺してくださーい☆」
沈黙。
数秒。
誰も理解できなかった。
「待って!!」
レイが立ち上がる。
「今対立したばかりじゃない!!」
アストラが首を傾げる。
「対立ー?」
そして手を振る。
「違う違う!!」
ケラケラ笑う。
「思想は違ってもー」
「ランキング者を殺す部分は一致してるよー☆」
レイが言葉を失う。
確かに。
完全には否定できない。
「やってほしいことは簡単!」
指を一本立てる。
「新しいグループを名乗ってー」
「第9位を殺してー☆」
その言葉に。
全員が固まる。
「第9位……?」
マッドが呟く。
レイは背筋が冷たくなる。
ここまで来て理解した。
アストラがイザベルの国へ来た理由。
最初から。
第13位を殺すためじゃない。
レイたちを誘うため。
利用するため。
そのためだけに来た。
レイはアストラを見る。
能力ランキング第4位。
ディバイドのリーダー。
圧倒的な強者。
だが。
本当に恐ろしいのは。
その力じゃない。
思考だ。
考え方だ。
世界の見方だ。
自分とは。
あまりにも違いすぎた。




