第62話 薄っぺらい正義
レイは答えた。
「私は……」
深く息を吸う。
そして。
アストラを見た。
「能力ランキング制度に賛同するランキング者を殺す」
強い目だった。
迷いを押し殺した目。
アストラは首を傾げる。
「賛同ねー……」
「じゃあ聞いちゃうけどー」
指を一本立てる。
「第13位はー??」
レイが固まる。
アストラは続けた。
「イザベルちゃんはー」
「ランキング制度に反対だよー?」
そうだったのか……
アストラが笑う。
「でもー」
「あなたの仲間連れて行っちゃったよー?」
ペーパー。
精神侵食。
偽りの平和。
自分たちの意思を奪う国。
レイは黙る。
第13位の国は平和だった。
だが。
本物の平和ではなかった。
人間の本心を潰す。
歪んだ平和。
レイは絞り出すように言う。
「そういう例外はいると思う……」
クロエが眉をひそめる。
レイは続けた。
「第13位のやってることは悪よ」
「だから殺す対象になる」
その瞬間。
アストラが吹き出した。
「あははははっ☆」
腹を抱える。
「例外ー?」
涙を拭きながら笑う。
クロエが冷たく言う。
「例外かどうか決めるのはあなた?」
レイは言葉を失う。
正義。
悪。
どちらなのか。
何を基準に決めるのか。
答えられない。
クロエが続ける。
「あのね」
「人にはそれぞれ思いがあるの」
静かな声だった。
「例外を作れば作るほど」
レイを見る。
真っ直ぐに。
「あなたの正義は薄っぺらくなるわ」
レイの胸が痛む。
反論できない。
その時だった。
「僕は!!」
マッドが立ち上がる。
全員が見る。
「僕はあなたたちが正義だとは思いません!!」
強い声だった。
クロエが笑う。
「正義?」
肩をすくめる。
「そんな答えのないことで論争する気?」
マッドが黙る。
反論が出てこない。
クロエはさらに言う。
「結局」
「皆、自分の都合で動いているだけよ」
静寂。
重い空気が流れる。
その時。
「うーん……」
アストラが何かを思い出したように言う。
そして。
レイを指差した。
「あなたー」
「ブラッドやったでしょ??」
レイの表情が変わる。
アストラが満面の笑みを浮かべる。
「やっぱりー☆」
しまった。
はめられた。
アストラは楽しそうだった。
「ブラッドの死因ねー」
指を振る。
「いくら調べても出てこなかったのー」
クロエも興味深そうに見る。
「あなたの故郷でしょ?」
レイは黙る。
アストラが笑う。
「ブラッドってねー」
少し身を乗り出す。
「カイの相棒だったのよ?☆」
レイが目を見開く。
「……え?」
頭が真っ白になる。
カイ。
兄。
ブラッド。
相棒。
繋がらなかった言葉が繋がる。
まさか。
ブラッドが。
兄の相棒。
アストラが周囲を見る。
「あれー?」
「みんな知らないのー?」
マッド。
フォーサ。
ミント。
三人とも首を傾げる。
アストラは楽しそうに言った。
「レイのお兄さんはー」
両手を広げる。
「能力ランキング第7位!」
「能力『城塞』」
「カイさんでーす☆」
沈黙。
マッドたちがレイを見る。
レイは俯いていた。
フォーサが呟く。
「第7位って……」
ミントも驚いている。
そして。
マッドが静かに聞いた。
「……じゃあ」
レイを見る。
「レイさんは」
苦しそうな顔。
「お兄さんがもし」
「ランキング制度に賛成だったら」
「殺すんですか……?」
レイは答えられなかった。
アストラが笑う。
クロエが言う。
「また例外?」
「笑わせてくれるわね」
レイは拳を握る。
何も言えない。
考えていなかった。
自分がどうするべきか。
本当に。
何も。
ただ。
両親を殺されてから。
世界を変えたい。
その気持ちだけで走ってきた。
だが。
今。
初めて気付く。
自分の正義は。
何も完成していなかった。




