第58話 お願い
この老婆がイザベル……。
レイは目の前の老婆を見る。
能力ランキング第13位。
イザベル。
そして隣には。
能力ランキング第4位。
アストラ。
能力『能力無効』
そんなでたらめな能力……
頭が混乱していた。
だが。
今はそんなことより。
「ミントは!?」
レイが叫ぶ。
「ミントは無事なの!?」
イザベルが笑う。
「おやおや」
杖を突く。
「ついさっきまで心配すらしておらんかったのに」
「急に心配するのかい?」
レイは言葉を失う。
確かにそうだ。
ミントが救護室へ運ばれた。
本来なら。
真っ先に様子を見に行くべきだった。
なのに。
誰も行かなかった。
誰も疑問に思わなかった。
誰も心配しなかった。
レイの顔が青ざめる。
「私たちは……」
「ミントを……」
自分を責めようとした時だった。
アストラがひらひらと手を振る。
「このおばさんの怖いところはー」
「気付かないうちに侵食されるとこー」
レイが目を見開く。
アストラは続けた。
「だからー」
「レイちゃんは気にしない☆」
こいつに慰められると。
なんだか腹が立つ。
だが。
少しだけ気持ちは楽になった。
その時。
イザベルが目を細める。
「ほう」
「その娘は仲間か」
そして。
口元を歪めた。
「ミントはわしらが預かっとる」
レイの顔色が変わる。
イザベルは続ける。
「返してほしければ」
杖を向ける。
「アストラ」
「去れ」
要求だった。
だが。
アストラは首を傾げる。
「んー?」
そして笑う。
「ちがうちがう!」
両手を振る。
「私ー」
「レイちゃんと仲間じゃないもん☆」
レイが眉をひそめる。
アストラは続ける。
「むしろー」
にこりと笑う。
「ミントちゃんは殺しちゃっていいよ☆」
レイの顔が引きつる。
そうだ。
こいつはディバイドのリーダー。
ランキング者は死んだ方がいい。
そう考えている女だった。
だが。
イザベルの額から冷や汗が流れる。
アストラはさらに続けた。
「っていうかー」
「私はー」
レイピアを抜く。
「イザベルちゃんを殺しに来たの☆」
空気が変わる。
イザベルの表情が固まる。
レイは慌てた。
「待って!!」
アストラの前へ飛び出す。
「んー?」
アストラが首を傾げる。
レイは頭を下げた。
「お願い!!」
声が震える。
「ミントを助けて!!」
「いいよー☆」
レイはただ頭を下げるしかなかった。
相手はディバイドのリーダー。
能力ランキング第4位。
敵わない。
頭を下げるしか……
「え……?」
レイが固まる。
聞き間違いかと思った。
だが。
アストラは笑顔のままだった。
「だからいいよーって!」
「でもー」
指を一本立てる。
「条件があるのー」
嫌な予感がした。
とてつもなく。
嫌な予感が。
「ミントちゃん助ける代わりにー」
「私のお願いも聞いてくれるー?☆」
レイは黙る。
断れない。
ミントを助けるためなら。
レイは頷いた。
すると。
アストラは満面の笑みを浮かべた。
「ってことでー」
イザベルを見る。
「私はレイちゃんたちと去るねー」
イザベルが目を見開く。
そして。
分かりやすく安堵した。
第13位。
それでも。
第4位は恐ろしいのか。
アストラはくるりと背を向ける。
だが。
立ち止まった。
「でも一つだけー」
再びイザベルを見る。
声色が変わる。
「私とー」
「レイちゃんのことは内緒にしてねー」
笑顔だった。
だが。
目は笑っていなかった。
「誰かに言ったらー」
「国ごと殺すよ」
イザベルの顔が強張る。
レイですら背筋が冷えた。
冗談ではない。
本気だ。
アストラなら本当にやる。
圧倒的な威圧。
イザベルは何も言えなかった。
ただ黙って見送るしかない。
アストラは再び笑顔へ戻る。
「じゃーね☆」
手を振る。
そして。
レイの肩を掴んだ。
「行こっか☆」
静寂。
イザベルは去っていく二人を見つめる。
そして。
小さく呟いた。
「何が目的だったんじゃ……」




