第57話 精神崩壊
朝。
レイたちは目を覚ました。
そしてすぐに気付く。
ミントがいない。
「ミントさん?」
マッドが周囲を見る。
返事はない。
フォーサも立ち上がる。
「どこ行ったのかな?」
ペーパーが首を傾げる。
「朝の散歩か?」
だが。
荷物も置いたままだった。
少しだけ不安になる。
探しに行こうとした。
その時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
入ってきたのはミレアだった。
「皆さん、おはようございます」
だが。
どこか申し訳なさそうな顔をしている。
レイが聞く。
「どうしたの?」
ミレアが答えた。
「ミント様ですが」
少し間を置く。
「体調を崩されました」
「現在は救護室で安静にされています」
全員が驚く。
「え!?」
マッドが声を上げる。
ペーパーが腕を組む。
「そういや」
「顔色悪かったかもな」
レイも思い返す。
たしかに。
元気がなかった気がする。
ミレアは続ける。
「大丈夫です」
「命に別状はありません」
全員が安心した。
「しばらくは絶対安静とのことですので」
「皆さんはゆっくりしてください」
そう言うと。
ミレアは頭を下げて去っていった。
少しの沈黙。
そして。
ペーパーが言う。
「まぁ大丈夫だろ」
レイも頷く。
「そうね」
フォーサも安心したように笑う。
気付けば。
もう誰も。
この国に不信感を持っていなかった。
◇
数日後。
レイたちは宿の一室へ集まっていた。
ミントはいない。
だが。
四人とも穏やかな表情だった。
レイが口を開く。
「みんな」
三人が見る。
レイは笑った。
「ここで暮らしましょう」
沈黙。
だが。
驚く者はいなかった。
むしろ。
喜んだ。
「やったー!!」
マッドが飛び上がる。
「いえーい!!」
フォーサも喜ぶ。
ペーパーも笑う。
「よし」
拳を握る。
皆。
笑顔だった。
レイも思わず笑う。
これで終わったんだ。
長い旅も。
苦しい戦いも。
全部。
終わったんだ。
その時だった。
ふと。
頭に何かが浮かぶ。
両親。
ブラッド。
ゼノ。
ステップ。
クロエ。
ギル。
ネメシス。
そして。
兄。
カイ。
一瞬だけ。
胸がざわつく。
あれ……?
何だっけ。
この記憶。
何か。
大事なことだった気がする。
でも。
思い出せない。
レイは首を振る。
「まぁいいや」
小さく呟く。
今が幸せだから。
それで十分だった。
こうして。
レイたちは。
この国へ移住することを決めた。
◇
深夜。
レイは目を覚ました。
喉が渇いていた。
皆眠っている。
レイは給湯室で水を飲む。
その時だった。
ポン。
肩を叩かれた。
「え……」
その瞬間。
記憶が戻る。
世界が揺れる。
頭の奥が痛い。
忘れていたもの。
押し潰されていたもの。
全部。
一気に蘇る。
両親。
ブラッド。
ゼノ。
ステップ。
クロエ。
ギル。
ネメシス。
アストラ。
最上位。
能力ランキング制度。
自分の目的。
全部。
思い出した。
レイの膝が床につく。
「はぁ……」
息が荒い。
「はぁ……はぁ……」
何が起きた。
何をされていた。
混乱する。
すると。
後ろから陽気な声が聞こえた。
「どうもー☆」
レイが振り向く。
そこには。
長いツインテール。
派手な化粧。
短パン。
オフショルダー。
そして。
満面の笑み。
「ここで登場!」
「アストラちゃんでーす☆」
能力ランキング第4位。
ディバイドのリーダー。
アストラが立っていた。
レイは数秒固まる。
そして。
思わず言った。
「……あなた」
アストラを見る。
「意外と胸大きいのね」
沈黙。
アストラが目を見開く。
そして。
頬を押さえる。
「レイちゃんのエッチー!!」
この感じ。
変わっていない。
不気味な女。
だが。
その不気味さのおかげで。
逆に正気へ戻れた。
レイは深呼吸する。
そして聞く。
「私は何をされたの?」
アストラが答える。
「精神をー」
指を振る。
「壊されてました☆」
精神。
やはり。
そうだったのか。
レイは顔をしかめる。
そして。
思い出す。
「でも」
「第13位の能力は『精神回復』だって……」
アストラが首を傾げる。
本当に不思議そうだった。
「ちがうよー?」
笑う。
そして。
当然のように言った。
「第13位イザベルの能力は」
少し間を置く。
「『精神侵食』だよ☆」
レイが目を見開く。
『精神侵食』
じゃあ。
この国は。
この平和は。
全部。
「どういうこと……」
頭が混乱する。
だが。
その時。
別のことを思い出した。
ミント。
ミントだ。
レイの顔色が変わる。
「ミントが!!」
アストラが瞬きをする。
「ミント?」
「第81位の人ー?」
レイが頷く。
「そう!!」
立ち上がる。
「もしかしたら攫われたかも!!」
アストラは少し考える。
そして。
笑った。
「だったらー」
指を立てる。
「攫った本人に聞いてみよう☆」
その時だった。
コツ。
コツ。
杖の音。
ゆっくり近付いてくる。
レイとアストラが振り向く。
そこには。
一人の老婆。
杖を突いている。
細い目。
深い皺。
だが。
纏う空気は異常だった。
老婆が言う。
「能力が全く効かぬ人間がおると思ったら」
静かな声。
だが重い。
「まさかお前さんとはの」
レイの背筋が凍る。
老婆は続ける。
「能力ランキング第4位」
杖を向ける。
「アストラ」
そして。
能力名を口にした。
「能力『能力無効』」
アストラは笑う。
「あは☆」
手を振る。
「まだ老衰してなかったんだね☆」
「イザベールちゃん!」
能力ランキング第13位。
イザベル。
ついに。
姿を現した。
静寂。
そして。
能力ランキング第4位。
アストラ。
能力ランキング第13位。
イザベル。
二人が向かい合った。




