第51話 宝物
ネメシスがヘイズへ近付く。
重力に押し潰され。
王は地面へ這いつくばっていた。
ルカも同じだった。
立ち上がることすらできない。
ネメシスは退屈そうに言う。
「じゃあ」
「死んでね」
その時だった。
「これこれ」
後ろから声がする。
「いかんぞ、ネメシスよ」
ネメシスの表情が歪む。
聞きたくない声だった。
振り返る。
そこにいたのは。
長い顎髭を撫でる老人。
能力ランキング第3位。
クロノ。
ヘイズとルカの目が見開かれる。
「クロノ……!?」
「第3位じゃないか……!」
信じられなかった。
最上位が二人もいる。
そんな光景。
普通の人間なら一生見ることはない。
クロノは二人をちらりと見る。
そして。
ネメシスへ向き直った。
「第100位はもう死んだんじゃ」
穏やかな声だった。
「ならば」
「そ奴らを殺す理由はないのぉ」
ネメシスが鼻で笑う。
「あのさぁ」
肩をすくめる。
「こいつが斡旋したんだよ?」
ヘイズが叫ぶ。
「していない!!」
必死だった。
「断じてしていない!!」
「信じてくれ!!」
クロノは顎髭を撫でる。
少し考える。
「うーむ」
静かに言った。
「とりあえず話は聞くべきじゃのぉ」
ネメシスが嫌そうな顔になる。
クロノは続ける。
「能力を解いてやりなさい」
重力が消える。
ヘイズとルカの身体から力が抜けた。
助かった。
そう思った。
だが。
次の瞬間。
強烈な殺気が放たれる。
ネメシスだった。
「あんまり僕を怒らせない方がいいよ?」
笑っている。
だが目は笑っていない。
「残り少ない命を大切にしな?」
ヘイズとルカの背筋が凍る。
クロノは肩をすくめた。
「おやおや」
「それは困るのぉ」
そして。
空を見上げる。
「やるか」
その瞬間だった。
空が暗くなる。
全員が上を見る。
そして。
言葉を失った。
空中。
はるか上空。
巨大な都市が浮かんでいた。
街。
城。
塔。
家々。
それら全てが。
空に存在している。
ヘイズは呆然と呟く。
「なんなんだよ……あれ……」
理解できない。
規模が違いすぎる。
ネメシスが笑う。
「あれが」
「空中都市ね」
能力ランキング第3位。
クロノ。
能力『空中都市』
ギルが人生を狂わされた力。
その象徴だった。
ネメシスが前へ出る。
「来なよ」
重力が歪む。
地面が沈む。
クロノは笑う。
「ゆくぞ」
「若造よ」
空中都市から。
何かが落ちてくる。
一体。
二体。
十体。
百体。
千体。
異形。
異形。
異形。
異形。
人ではない何か。
怪物の軍勢。
国家規模の数。
ヘイズとルカは震えた。
ネメシスは笑う。
心から楽しそうに。
「いいねぇ!!」
能力ランキング第3位。
クロノ。
能力ランキング第6位。
ネメシス。
最上位同士の戦いが。
始まった。
◇
一方。
レイたちは国を出ていた。
歩く。
ひたすら歩く。
誰も何も言わない。
だが。
レイだけは。
止まれなかった。
「待てよレイ!!」
ペーパーが叫ぶ。
「レイさん!」
「落ち着いてください!」
マッドも追いかける。
フォーサも。
ミントも。
必死だった。
そして。
ようやく。
レイが立ち止まる。
肩が震えている。
俯いたまま。
小さく呟く。
「私は……」
声が震える。
「どうすればいいのか分からない……」
涙が落ちる。
止まらない。
レイは叫んだ。
「私は両親を殺された!!」
涙が飛び散る。
「マッドは家族を!!」
マッドが目を伏せる。
「ペーパーは妹を!!」
ペーパーが黙る。
「フォーサは父を!!」
フォーサが唇を噛む。
「ミントは仲間を!!」
ミントは静かに聞いていた。
「殺された!!」
レイの声が響く。
「だから変えたかった!!」
拳を握る。
「変わると信じてた!!」
能力ランキング制度。
最上位会議。
世界。
全部。
変えられると思っていた。
だが。
現実は違った。
「でも!!」
レイは泣きながら叫ぶ。
「何も変わらなかった!!」
沈黙。
誰も言葉が出ない。
レイの涙だけが流れる。
フォーサが小さく呟く。
「レイ……」
だが。
何も言えない。
そんな中。
ミントが一歩前へ出た。
「レイ」
優しい声だった。
レイが顔を上げる。
ミントは微笑む。
「私たちが」
「なぜ集まっているか分かる?」
レイは首を振る。
分からない。
ミントは言った。
「それはね」
少し笑う。
「あなたが一生懸命だからよ」
レイが固まる。
ミントは続ける。
「あなたは必死に正しいことをしようとしていた」
「辛い思いをしながら」
「頭を使って」
「ボロボロになっても」
「頑張っていた」
レイの目が揺れる。
「この三人から聞いたわ」
ミントが後ろを見る。
マッド。
ペーパー。
フォーサ。
三人とも頷いていた。
ミントはレイへ近付く。
そして。
右手を握った。
温かい手だった。
「だからね」
「レイ」
レイがミントを見る。
「あなたがまた頑張るなら」
「私たちはついていく」
優しい声。
安心する声。
「もし辛いなら」
「一緒にどこかで」
「静かに暮らしましょ」
レイの視界が滲む。
マッドも笑っていた。
ペーパーも笑っていた。
フォーサも笑っていた。
気付いていなかった。
いつの間にか。
本当の仲間ができていたことに。
失ったものばかり見ていた。
でも。
今は違う。
レイには。
守りたいものがあった。
レイはミントへ抱き着く。
そして。
子供のように泣いた。
声を上げて。
泣いた。
ミントは何も言わない。
ただ優しく抱きしめる。
レイはようやく気付いた。
自分は。
新しい宝物を手に入れていたのだと。




