第50話 平常通り
レイたちは最上位会議の近くにある国へ到着していた。
目的は一つ。
最上位会議へ乗り込むことではない。
能力ランキング制度がどう変わったのか。
それをすぐに知るためだった。
あれだけの死者が出た。
第15位。
第25位。
第27位。
第30位。
そのほか大勢。
多くのランキング者が死んだ。
何かが変わったはず。
レイはそう考えていた。
だが。
国へ入った瞬間。
違和感を覚える。
人々が慌ただしく走り回っていた。
荷物を抱える者。
泣きながら逃げる者。
家族を呼ぶ者。
まるで避難だ。
「なんだか、せわしないですね」
マッドが周囲を見渡す。
ペーパーも眉をひそめる。
「戦争でも始まるのか?」
レイは近くにいた老婆へ声をかけた。
「何があったんですか?」
老婆は驚いた顔をする。
そして。
慌てて答えた。
「我が国の能力者が、最上位会議に手を出したらしいんだよ!」
レイたちは固まる。
最上位会議。
あの化け物たちの集まり。
そこを襲撃した?
「アンタたちも早く逃げな!」
「巻き込まれるよ!」
老婆はそう言い残して走り去った。
レイは呆然とする。
何を考えたらそんなことをするのだろう。
人々が逃げ惑う中。
大声が響いた。
「くそっ!!」
振り向く。
王らしき男だった。
「タネめ!!」
「馬鹿なことをしてくれた!!」
怒鳴っている。
隣には騎士がいた。
「王!」
「今は逃げましょう!」
「殺されます!」
必死だった。
だが。
その時。
「ねぇ」
声が聞こえた。
全員が振り向く。
「君たちは逃げちゃダメでしょ」
その瞬間。
レイの背筋が凍った。
圧。
とてつもない圧。
ライゼン。
クロエ。
アクア。
ギル。
今まで出会った強者たち。
その全員が小さく感じる。
息が詰まる。
男が立っていた。
白髪。
やや上を向いた顔。
不遜な態度。
そして。
手には資料。
男は紙を見ながら言う。
「この国の王ヘイズ」
「そして騎士ルカ」
「第85位と第97位ねぇ」
王の顔色が変わる。
「お前……」
声が震える。
「第6位ネメシスか」
レイたちは息を呑む。
第6位。
最上位会議の一人。
こんなにも早く。
遭遇するとは思わなかった。
ネメシスは笑う。
「そうだよ」
「僕がネメシスだ」
その瞬間。
ルカが動いた。
剣を抜く。
そして。
一気に距離を詰める。
速い。
だが。
ネメシスは動かない。
次の瞬間。
ドン。
ルカの身体が地面へ叩きつけられた。
「ぐはっ!」
地面に埋まる。
立てない。
ヘイズが慌てて能力を発動しようとする。
だが。
「がはっ!」
同じだった。
膝をつく。
身体が潰される。
レイは理解する。
押し潰されている。
見えない力で。
ルカが歯を食いしばる。
「重力……か」
ネメシスが笑った。
「そうだよ」
「僕の能力は『重力操作』」
絶望的だった。
何もできない。
ネメシスは二人を見下ろす。
「今すぐ殺してもいいけど」
「判決はちゃんと言わないとね」
そして。
大声で宣言する。
「この国の第100位タネが最上位会議を襲撃した!」
周囲が静まる。
ネメシスは続ける。
「よって」
「彼は我々が殺した」
ヘイズが叫ぶ。
「ならそれでいいだろ!!」
「もう終わった話だ!!」
だが。
ネメシスは首を振る。
「終わってないよ」
笑う。
そして。
言い放つ。
「この行為は第85位ヘイズが斡旋したらしい!」
ヘイズの顔が真っ赤になる。
「なんだと!?」
怒鳴る。
「斡旋するわけないだろうが!!」
当然だった。
だが。
ネメシスは笑ったまま。
「んー?」
首を傾げる。
「僕は嘘をつかないよ?」
レイは理解した。
嘘だ。
ネメシスは嘘をついている。
理由を作っている。
殺すための。
ヘイズも分かっていた。
だから叫ぶ。
「そもそもだ!!」
「ランキング者を殺していいのか!!」
必死だった。
だが。
ネメシスの答えは冷たかった。
「下位は死んでもかまわない」
「補充もしない」
さらに続ける。
「平常通りだよ」
レイは固まる。
ネメシスは笑う。
「最上位会議で決まったんだ」
頭が真っ白になる。
何も変わらなかった。
ライゼン。
アクア。
フレイム。
ストーム。
ギル。
ナギ。
マリン。
たくさんの死。
たくさんの戦い。
あれだけの犠牲。
それでも。
最上位は。
何も変えない。
レイは前へ出る。
「ねぇ」
ネメシスを見る。
「何?」
ネメシスが視線を向ける。
その瞬間。
レイの全身から汗が噴き出す。
怖い。
だが。
聞かなければならない。
「ランキング者があれだけ死んだのよ!!」
声を震わせながら叫ぶ。
「本当に何もないの!?」
ネメシスはしばらくレイを見る。
そして。
「あー?」
首を傾げる。
「君誰?」
レイは言葉を失う。
ネメシスは興味なさそうに続けた。
「まぁいいや」
「答えてあげるよ」
そして。
当たり前のように言った。
「雑魚はいらないの」
冷たい。
あまりにも冷たい。
「穴埋めも面倒だしね」
レイは愕然とする。
能力ランキング制度は。
何も変わらなかった。
ディバイドが起こした大合戦も。
多くの犠牲も。
最上位が変わらない限り。
何も変わらない。
レイは拳を握る。
悔しい。
悔しくてたまらない。
だが。
今は何もできない。
レイは背を向けた。
歩き出す。
「おい!」
ペーパーが呼ぶ。
「レイ!」
マッドも。
フォーサも。
ミントも。
慌てて追いかける。
誰も振り返らなかった。
ネメシスはその背中を見送る。
そして。
小さく呟いた。
「あの女」
少し考える。
「誰かに似てる気がするなぁ」
だが。
それ以上は考えなかった。
ネメシスは人に興味がなかった。
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