第二十二話 影喰い
レイたちは座った。
会話で終わるなら。
それが一番だと思った。
「あなた、ディバイドなのね」
レイが先に仕掛ける。
女性はグラスを揺らした。
「えぇ」
レイたちは固まる。
レイは平常心を装う。
「何しに来たの?」
女は答える。
「ステップを殺したでしょ?」
やはり。
全員が顔をしかめる。
クロエは小さく笑った。
「大丈夫よ」
「仇討ちなんてしないから」
レイたちは少しだけ驚く。
クロエは続けた。
「むしろ」
「迷惑かけてごめんなさいね」
謝罪だった。
あまりにも予想外だった。
「彼は30位と47位を共倒れさせる任務だったの」
「できれば他のランキング者もね」
淡々と話す。
まるで失敗した作戦の報告をするように。
「でも彼はしくじった」
「ディバイドの仲間を近くへ呼んで」
「47位に気付かれた」
酒を一口飲む。
「だから失敗しただけ」
冷たい声だった。
レイは理解する。
ディバイドにとって。
ランキング者は排除対象。
それ以上でも以下でもない。
「お前たちのせいで!」
マッドが立ち上がる。
「マリンさんが死んだんだぞ!」
怒りで震えていた。
「お前たちは最低だ!!」
「あんな優しい人を!!」
フォーサも拳を握る。
「おい、よせ!!」
ペーパーが慌ててマッドを抑えた。
だが。
クロエは表情を変えない。
「それは謝らないわ」
静かに言った。
「だって彼女は」
「ランキング者だもの」
マッドが言葉を失う。
レイが代わりに聞く。
「何故ランキング者だけを狙うの?」
クロエは少し驚いた。
「あら?」
「あなたは違うの?」
レイが眉をひそめる。
クロエは首を傾げた。
「てっきり同じ目的だと思ってた」
「あなた」
「ゼノやステップを殺したでしょ?」
レイの背筋が冷える。
知られている。
クロエは続ける。
「能力者狩りでもしてるのかと思ってた」
レイは机を叩く。
「違う!!」
「私はただ」
「能力者に虐げられている人を助けたいだけ!!」
レイは叫んだ。
「そのために」
「能力ランキング制度を破壊するの!!」
沈黙。
その瞬間だった。
クロエがレイを睨む。
レイたちの身体が震えた。
呼吸が止まりそうになる。
殺される。
本能が叫ぶ。
だが。
数秒後。
殺気が消えた。
クロエはため息を吐く。
「簡単に言わないで」
静かな声だった。
「私ごときに怯えているくせに」
誰も反論できない。
事実だった。
「あなたたちでは無理よ」
クロエが言う。
「上位は……別世界なの」
少しだけ。
遠い目をした。
まるで。
自分もその世界を知っているかのように。
「じゃあ」
レイが聞く。
「あなたたちは?」
クロエは即答した。
「私達ならできる」
強い言葉だった。
迷いがない。
レイは言葉を失う。
クロエは立ち上がる。
そして。
酒場全体へ向けるように言った。
「仲間以外のランキング者は全員殺す」
「そして」
高らかに宣言する。
「私たちが制度を乗っ取るの」
フォーサが呟く。
「乗っ取る……?」
クロエはうなずいた。
「そう」
「制度を乗っ取って」
「ディバイドが治安を維持して」
「ディバイドが国を統治する」
これが。
ディバイドの目的。
だから。
既存のランキング者を全員殺す。
そして、ランキングを自分達で埋める。
考え方は理解できる。
だが。
違う。
私の目指す未来とは。
決定的に。
クロエが振り返る。
「あぁ」
「自己紹介がまだだったわね」
そして微笑んだ。
「私は能力ランキング19位」
レイたちの空気が張り詰める。
「能力は『影喰い』」
影が揺れた。
まるで生き物のように。
「クロエよ」
レイたちは息を呑む。
19位。
想像以上だった。
その時。
レイたちの足元。
影が動いた。
「……!?」
黒い手が現れる。
首へ伸びる。
掴まれる。
誰も抵抗できない。
「ディバイドのことは」
「他言無用でよろしく」
クロエが笑う。
そして。
手を軽く振った。
「全員撤収するわよ!」
その瞬間だった。
店員が立ち上がる。
客も立ち上がる。
老人。
商人。
酔っ払い。
旅人。
全員だった。
服を脱ぐ。
その下から現れたのは。
黒い服。
黒いフード。
ディバイド。
酒場の全員が。
ディバイドだった。
フォーサが息を呑む。
マッドも固まる。
ペーパーですら言葉を失った。
最初から。
囲まれていたのだ。
クロエは出口へ向かう。
そして。
最後に振り返った。
「じゃあ」
「今日は挨拶だけ」
レイたちの首を掴んでいた影が消える。
身体が自由になる。
クロエは微笑む。
「あなたたちの目的が知れてよかった」
「ランキング者を殺すなら」
「どんどんやってね」
一歩。
また一歩。
歩きながら。
クロエは言った。
「でも」
酒場の空気が凍る。
「もし邪魔するなら……」
クロエの目が細くなる。
誰も動けなかった。
そして。
ディバイドたちは去っていった。
酒場には。
重苦しい沈黙だけが残された。




