第210話 一撃の決着
闘技場。
静寂。
空気が重い。
誰も喋らない。
中央。
ドルガン。
そして。
レイ。
二人が先に立っていた。
観客席。
フォーサ。
スエルテ。
二人が見ている。
緊張。
張り詰めていた。
スエルテが口を開く。
少しだけ。
気の抜けた声。
「どうなるかなー?」
空気を。
少しでも和ませたかった。
だが。
フォーサは答えない。
俯いたまま。
拳を握っていた。
その時。
カツ。
カツ。
足音。
静かな闘技場に響く。
全員の顔が上がる。
そして。
現れた。
レギウス。
真っ白な袴。
純白。
穢れなき。
能力ランキング第1位。
世界最強。
全員が息を呑む。
レギウスが歩く。
静かに。
そして。
止まった。
ドルガンを見る。
レイを見る。
だが。
言葉はない。
兄弟。
言葉など。
必要なかった。
二人には。
通じ合うものがある。
レギウスは。
ただ立っていた。
静かに。
動かない。
その姿が。
いつ始めてもいい。
そう語っていた。
ドルガンが。
レイへ言う。
低い声。
「行くぞ」
レイが頷く。
静かに。
右手を上げた。
光が集まる。
眩い。
鋭い光。
レギウスへ向ける。
たった一瞬。
そのタイミング。
ドルガンが斬られた瞬間。
放つ。
それだけ。
全員が。
呼吸を忘れる。
瞬きすら。
できない。
静寂。
そして。
ドルガンが動いた。
レギウスへ。
一直線。
突撃。
次の瞬間。
ドルガンが叫ぶ。
「今だ!!」
その瞬間。
レイが放つ。
光線。
バシュッ!!
◇
静寂。
誰も動かない。
音もない。
レギウスが。
ゆっくり。
自分の胸を見る。
心臓。
そこに。
穴が空いていた。
空洞。
綺麗に。
貫かれている。
レイが固まる。
ドルガンも。
動かない。
レギウスが。
小さく微笑んだ。
穏やかに。
優しく。
そして。
そのまま。
倒れる。
ドサッ。
静寂。
終わった。
ドルガンとレイ。
勝った。
能力ランキング第1位。
世界最強。
レギウスを。
倒した。
だが。
ドルガンの顔。
勝者の顔ではなかった。
驚愕。
困惑。
理解。
全てが混ざっていた。
ドルガンが。
自分を見る。
腕。
胸。
腹。
どこにも。
傷がない。
一切。
斬られていない。
ドルガンの目が揺れる。
理解した。
レギウスは。
斬れなかったんじゃない。
斬らなかった。
わざと。
ドルガンが固まる。
つまり。
最初から。
レギウスは。
死ぬ気だった。
ドルガンの呼吸が乱れる。
信じられない。
そして。
ドルガンが。
自分の腹部をなぞる。
昔。
レギウスに斬られた傷。
あの日。
地下闘技場。
決裂の日。
もしかしたら。
いや。
違う。
確信した。
レギウスは。
対象の硬さなど。
関係なかった。
鋼鉄。
怪物。
地獄の王。
何だろうと。
全部斬れた。
どんなものでも。
斬れた。
ドルガンの顔が歪む。
地獄での特訓。
闇王との死闘。
鋼鉄以上の肉体。
全て。
無意味だった。
耐えるための努力。
全部。
意味がなかった。
ドルガンは。
理解した。
レギウスは。
ドルガンの努力を。
否定しないために。
何もしなかった。
斬らず。
ただ。
死んだ。
ドルガンの拳が震える。
顔が歪む。
涙がこぼれる。
そして。
叫んだ。
「ふざけるな……」
低い声。
震えていた。
次の瞬間。
絶叫。
「ふざけるな!!!!」
怒号。
闘技場全体が震える。
ドルガンの目から。
次々涙が流れる。
止まらない。
フォーサ。
スエルテ。
レイ。
全員。
ただ。
ドルガンを見ていた。
何も言えない。
能力ランキング第1位。
レギウス。
普通を夢見た男。
世界最強。
死亡。




