第211話 旅立ち
ドルガンと共に。
大広間へ戻った。
静寂。
誰も喋らない。
自然と。
全員が腰掛けていた。
重い空気。
勝ったはずだった。
能力ランキング第1位。
世界最強。
レギウスは死んだ。
なのに。
誰一人。
勝った気がしなかった。
その時。
ドルガンが口を開いた。
低い声。
「なぜ……」
俯いたまま。
呟く。
「なぜレギウスは」
「俺を殺さなかったんだ」
そこにいたのは。
世界の支配者ではなかった。
能力ランキング第2位でもない。
ただ。
兄を失った弟。
それだけだった。
レイが。
静かに思い出す。
カイ。
最後の瞬間。
自分の光線が。
カイへ迫った時。
カイの能力は覚醒した。
あの時。
カイは生き残れた。
能力を使えば。
だが。
使わなかった。
レイを守るために。
レイが口を開く。
静かに。
「それはきっと……」
ドルガンが顔を上げる。
レイが言う。
「あなたを守るためよ」
静寂。
ドルガンが固まる。
言葉を失う。
レイが続ける。
「レギウスは」
「最後まであなたを愛してた」
ドルガンの瞳が揺れる。
その瞬間。
脳裏によみがえる。
幼い日。
初めて会った日。
兄。
レギウス。
優しい笑顔。
そして。
あの言葉。
「じゃあ」
「僕が愛するよ」
何十年も前の記憶。
忘れたはずだった。
だが。
忘れていなかった。
その言葉が。
胸に突き刺さる。
ドルガンが下を向く。
拳が震える。
いくら鍛えても。
いくら強くなっても。
中身は変わらなかった。
ただ。
愛されたかった。
認められたかった。
少年のままだった。
静寂。
長い沈黙。
そして。
ドルガンが口を開いた。
「レギウスは死んだ」
「だが」
「これで俺が1位だとは言えないな」
レイ達が見る。
ドルガンが立ち上がった。
そして。
言う。
「俺は旅をする」
静かな声。
だが。
どこか軽かった。
「自分を見つめ直す旅をな」
それだけ言った。
レイが考える。
ドルガンを。
ここで殺すべきか。
能力ランキング制度の黒幕。
全ての元凶。
殺す理由はある。
だが。
もう。
ドルガンには。
執着がなかった。
ランキング制度にも。
世界にも。
興味がない。
終わったのだ。
全て。
それに。
ドルガンに勝つ方法もない。
レイが迷う。
その時。
ドルガンが近づいた。
レイの前に立つ。
大きな手。
肩に置かれる。
ドルガンが言う。
「殺したいなら」
「いつでも殺しに来るといい」
「だが」
少し目を細め。
冷たく。
言い放つ。
「俺はもう」
「お前に興味はない」
レイが固まる。
その言葉。
皮肉だった。
執着しているのは。
もう。
レイだけだった。
次の瞬間。
ズズズズズ……。
闇が開く。
ドルガンが消える。
静寂。
残されたのは。
レイ達だけだった。
◇
レイ。
フォーサ。
スエルテ。
三人は。
国を出ようとしていた。
全てが終わった。
もう。
ここにいる理由はない。
静かな道。
その時。
スエルテが立ち止まる。
「じゃあ」
「僕は行くよ」
レイとフォーサが振り向く。
スエルテは。
別の道を見ていた。
そのまま。
歩き出す。
別方向へ。
フォーサが言う。
「え?」
レイも驚く。
「ちょっと!」
だが。
スエルテは振り向かない。
手だけ振る。
「じゃあねー」
軽い声。
そのまま。
去っていった。
静寂。
フォーサが呟く。
「なんなんだろうね……」
レイも小さく頷く。
不思議な人物だった。
最初から最後まで。
何も分からない。
掴めない男。
その時。
鋭い声が響いた。
「やめなさい!!」
女性の声。
レイとフォーサが振り向く。
そこにいた。
レギウスの妻。
そして。
娘。
娘の手には。
刀。
握りしめている。
強く。
震えながら。
だが。
目だけは違った。
強烈な殺意。
レイを。
真っ直ぐ睨んでいた。
憎しみ。
復讐。
その感情だけが。
燃えていた。




