第二十話 王の決断
ステップが死んだ。
だが。
場内の空気は重いままだった。
確かにステップはマリンを殺した張本人だ。
殺すことは当然だ。
しかし。
ギルたちから見れば。
47位と63位が死んだことになる。
この事実はすぐに伝わるだろう。
そうなれば。
敵は一気に攻めてくる。
フォーサを守り切ることは……
難しい。
「レイ、マッド、ペーパー」
王が口を開く。
三人は顔を上げた。
「おぬしたちにはマリンの仇を討ってもらった」
「感謝しかない」
王が深く頭を下げる。
誰も何も言えなかった。
少しの沈黙。
そして。
王は何かを決意したように言った。
「フォーサを連れて」
「逃げてはくれないか?」
レイたちは目を見開く。
それはつまり。
「王様!」
「死ぬ気ですか!?」
マッドが叫ぶ。
王は笑った。
穏やかな笑みだった。
「死ぬ気はないぞ?」
「ただ、いよいよワシが本気で動くからのぉ」
そして続ける。
「お前たちも」
「フォーサも」
「邪魔になるだけじゃ」
嘘だ。
勝てるわけがない。
王自身も分かっているはずだ。
だが。
その嘘を。
優しい嘘を。
誰も否定しなかった。
皆。
黙って受け入れた。
◇
出発の準備が終わった。
フォーサも一緒だ。
だが。
「お父様!!」
「嫌です!!」
フォーサが泣き叫ぶ。
「一緒に行きましょう!!」
涙が止まらない。
王はゆっくりとフォーサへ近付いた。
そして。
頭を撫でる。
「フォーサ」
「私のかわいい娘」
優しい声だった。
フォーサは首を振る。
何度も。
何度も。
だが。
王は続けた。
「ワシはな」
「父親であると同時に王でもある」
フォーサの肩が震える。
「民を見捨てることはできん」
王はしゃがむ。
そしてフォーサと目を合わせた。
「強く生きよ、フォーサ」
「これまでも」
「これからも」
「愛しておる」
王はフォーサを抱き締めた。
強く。
優しく。
フォーサは泣き続ける。
マッドも泣いていた。
ペーパーは黙ったまま天井を見上げていた。
レイは……
父と母を思い出していた。
愛されていた時を。
王はフォーサから離れる。
一羽の鳥を取り出した。
小さな青い鳥だった。
「この鳥について行けば」
「裏口から出られる」
鳥はレイたちの周囲を飛ぶ。
まるで案内するように。
王は大きな声で言った。
「さぁ、行くがよい!」
レイたちはうなずく。
そして。
フォーサを連れて歩き出した。
◇
鳥について進む。
やがて。
城の裏口へ辿り着いた。
フォーサはずっと泣いている。
その時だった。
レイは足を止める。
「これは……?」
裏口の外。
そこには大量の動物がいた。
鹿。
狼。
狐。
鳥。
兎。
数え切れないほどの動物たち。
そして。
レイたちを見ると。
静かに左右へ分かれた。
道を開けたのだ。
誰も命令していない。
それなのに。
「お父様の能力……」
フォーサが涙を流しながら呟く。
「『動物会話』」
「お父様は動物と会話ができるの」
会話。
それだけの能力。
だが。
それだけで。
これほど多くの動物たちが集まっている。
レイは思う。
きっと。
「あなたのお父さんは」
「動物にも優しい」
「立派な王様なのね」
フォーサの涙がさらに溢れた。
「うぅ……っ」
「お父様ぁ……!」
動物たちは静かに道を守っている。
まるで。
王の最後の願いを叶えるように。
その時だった。
ドォォォォン!!
背後から爆発音が響く。
城の方角だった。
続けて。
轟音。
悲鳴。
戦いが始まったのだ。
レイは前を向く。
マッドも。
ペーパーも。
誰も振り返らなかった。
王の覚悟を。
無駄にはできないから。
レイたちは前へ進む。
ただ前へ。
涙をこらえながら。




