第十九話 空中走り
翌朝。
レイたちが目を覚ますと、城の中が騒がしかった。
兵士たちが慌ただしく走り回っている。
「何かあったのか?」
ペーパーが身構える。
嫌な予感がした。
レイたちは急いで王の間へ向かう。
王の間の前には兵士が立っていた。
顔色が悪い。
「あまり見られないほうがよろしいかと……」
兵士は震えながら言った。
「見ないわけにはいかない」
「開けて」
レイが言う。
マッドが唾を飲み込む。
兵士は迷った末に扉を開いた。
重い音が響く。
そして。
「……マリン?」
レイは言葉を失った。
王の玉座の前。
そこに置かれていたのは。
首だった。
マリンの首。
苦悶の表情を浮かべている。
「うっ……」
マッドが顔を青くする。
吐きそうになっていた。
王は震えている。
怒りで。
悲しみで。
拳を強く握り締めた。
「誰の仕業じゃ……」
低い声だった。
次の瞬間。
「誰の仕業じゃあああぁぁぁ!!!!」
王の怒号が王の間に響く。
誰も答えられない。
隣にはステップが立っていた。
仮面の奥の表情は見えない。
レイは考える。
普通に考えればギルたちだ。
だが。
誰にも気付かれず。
マリンほどの実力者が暗殺されるだろうか。
その時だった。
ブゥン。
ステップの身体から音がした。
全員の視線が集まる。
すると。
服の隙間から小さなアンコウが現れた。
「アンコウ……?」
マッドが首を傾げる。
レイの思考が走る。
なぜアンコウが。
ステップの体から。
マリンの能力に間違いない。
死んだ時のために仲間を残した?
だが。
こんな小さなアンコウに戦闘力はない。
なら。
なぜ。
レイはナギの言葉を思い出した。
『ステップはやっぱり不気味ね』
そして。
戦闘中。
突然背後へ現れた暗密能力。
さらに。
マリンのアンコウ。
全てが繋がる。
「まさか……!」
レイが結論へ辿り着く。
その瞬間。
王も小さなアンコウを見ていた。
そして顔色が変わる。
「貴様かステップ!!!!」
王が叫んだ。
「チッ」
ステップが舌打ちする。
そして。
一気に飛び退いた。
ステップは空中へ着地した。
飛んでいる?
「あの女」
「変な真似しやがって」
初めて。
ステップが口を開いた。
「貴様!」
「なぜこんなことを!」
王が怒鳴る。
ステップは肩をすくめた。
「見られちまったんだよ」
「ディバイドが城に入るところを」
ステップの自白に。
王が驚く。
「貴様……まさか!?」
ステップが不敵な笑みを浮かべる。
「あぁ、俺もディバイドだ!」
レイが眉をひそめる。
「ディバイド?」
ペーパーが答えた。
「ランキング者狩りの集団だ」
「最近何人かやられて有名になった」
そんな集団が。
本当に存在するのか。
レイは驚く。
だが。
ステップは待ってくれない。
そのまま走り出した。
空へ。
「飛んでる!?」
マッドが叫ぶ。
違う。
飛んでいない。
空中を走っている。
何もない場所を。
地面のように。
能力ランキング63位。
能力『空中走り』
異様な光景だった。
レイは右手を構える。
だが。
速い。
速すぎる。
照準が定まらない。
ステップは兵士たちへ突っ込む。
クナイが閃く。
血が飛ぶ。
近衛兵が次々と倒れていった。
「邪魔だ!!」
ペーパーが大量の紙をばら撒く。
紙は刀へ変化した。
一斉にステップへ襲い掛かる。
だが。
「甘ぇな」
ステップは全て避けた。
そして壁へ着地する。
その瞬間。
「お前は絶対許さない!!」
マッドが叫んだ。
怒りに満ちた声だった。
壁が泥へ変わる。
「その程度で止まるか!」
ステップはすぐに飛び退こうとする。
だが。
泥が動いた。
泥の中から手が現れる。
何本も。
何本も。
泥の手がステップの足を掴んだ。
「なっ!?」
初めて。
ステップが動揺する。
「マッド!」
「そんなことができたのか!?」
ペーパーが驚く。
マッド自身も驚いていた。
「今……できるようになりました」
レイの目が見開く。
まさか。
覚醒。
怒りで能力が進化したのだ。
「レイさん!!」
マッドが叫ぶ。
「今です!!」
レイは右手を向ける。
もう外さない。
ステップは泥に捕まっている。
照準は十分だった。
レイは息を吸う。
そして。
放つ。
バシュッ
一筋の光線。
真っ直ぐ飛ぶ。
ステップの心臓を。
正確に貫いた。




