第二話 母の価値
「きゃあああああああああっ!!」
母が黒い炎に包まれる。
「お母さん!!」
レイは慌てて水桶を掴み、炎へぶちまけた。
だが。
消えない。
何度かけても。
何度かけても。
黒い炎は燃え続ける。
「無駄だ」
ブラッドが退屈そうに言った。
「その炎は灰になるまで消えねぇよ」
レイは動けなくなる。
母の悲鳴が響く。
助けたい。
助けなければならない。
なのに何もできない。
能力『光線』
右手から1ミリの光線を出すだけの能力。
何の役にも立たない。
「お母さん……!」
母の声が少しずつ小さくなる。
炎も少しずつ小さくなる。
そして。
灰だけが残った。
「どうして……?」
レイは震える声で呟く。
ブラッドは鼻で笑った。
「俺がなぜ殺したか、説明する理由でもあるのか?」
レイの中で何かが切れた。
「あるに決まってる!!」
「お母さんを……!」
「お母さんを返してよ!!」
ブラッドは不気味に口角を上げた。
「絶望してる顔は好きだぜ」
「生かしておいてやるよ」
そう言って背を向ける。
レイは追うこともできなかった。
ただ泣くことしか。
その泣き声だけが村中に響いていた。
◇
母の通夜が行われた。
久しぶりに父の姿を見た。
有名な商人で、ほとんど家には帰ってこない。
兄は来なかった。
「お父さん……」
レイは父に抱きつく。
「あぁ」
父はレイの頭を撫でた。
「大丈夫だ」
その目は優しくなかった。
燃えるような殺意だけがあった。
「許さない」
その一言だけだった。
◇
数日後。
ブラッドは酒瓶を片手に街道を歩いていた。
上機嫌だった。
そこへ複数の人影が現れる。
殺し屋たち。
その後ろには、レイの父がいた。
ブラッドが笑う。
「なんだ?」
「仇討ちか?」
「誰のだぁ?」
父の拳が震える。
こいつは誰を殺したかも覚えちゃいない。
妻の顔が脳裏をよぎる。
「殺せ」
父が命じる。
殺し屋たちが一斉に飛び出した。
剣。
斧。
能力。
様々な攻撃がブラッドへ襲いかかる。
だが。
黒い炎の壁が現れた。
全てを防ぐ。
殺し屋たちが足を止める。
その瞬間。
炎の壁から黒い火球が放たれた。
一人。
また一人。
黒い炎に包まれていく。
悲鳴。
絶叫。
地獄だった。
父の顔が青ざめる。
ブラッドは笑った。
「あのさぁ」
「俺を殺すなら、最上位のランキング者でも連れてこいよ」
「ばーか」
黒い炎が父を飲み込んだ。
◇
後日。
レイは部屋に閉じこもっていた。
母は死んだ。
父は帰ってこない。
兄からの連絡もない。
そこへ兵士がやって来た。
「調査結果が出た」
レイは顔を上げる。
ブラッドは捕まる。
そう信じていた。
能力ランキング22位だろうが関係ない。
人を殺したのだから。
だが。
兵士が差し出したのは紙と袋だった。
「能力ランキング22位ブラッド」
「無罪」
レイの思考が止まる。
兵士は続ける。
「補償金だ」
袋の中には金貨が数枚。
一か月も暮らせば消える程度の金。
それだけ。
それだけだった。
母の命の価値は。
レイは袋を握り締める。
震える手に力が入る。
これが母の価値。
これが22位の価値。
レイは初めて知った。
この国は腐っている。
そして。
能力ランキングは。
人の命より価値があるものだった。




