第196話 頂点の二人
ノアは。
近くの植物に。
ジョウロで水をやっていた。
静かに。
淡々と。
やり直す。
もう一度。
最初から。
たとえ。
仲間が全員死んでも。
まだ終わらない。
その時だった。
ズキッ。
頭に激痛。
「うっ……」
ノアが頭を押さえる。
苦しそうに。
顔を歪めた。
そう。
植物で補完したとはいえ。
脳天に空いた穴。
ダメージは深刻だった。
完全には治っていない。
ノアが歯を食いしばる。
憎しみの目。
許さない。
殺す。
ノアが森を動かした。
次の瞬間。
森が。
消えた。
一瞬だった。
塵。
「……は?」
ノアが固まる。
理解できない。
何が起きた。
その時。
足音。
静かに。
近づいてくる。
一人の男。
おじさん。
そう呼ぶしかない。
普通の男。
歩いてくる。
ノアを見て。
口を開く。
「お前が……」
「フェル」
「フレア」
「ボムを殺したのか?」
ノアが息を呑む。
男が睨む。
怒り。
確かに怒っている。
だが。
不思議だった。
脅威を感じない。
殺気もあまりない。
威圧感もあまりない。
それが逆に。
怖かった。
ノアの思考が回る。
フェル。
フレア。
ボム。
道場の者達。
そして。
導き出された。
答え。
顔が青ざめる。
こいつは。
レギウス。
能力ランキング第1位。
世界最強。
ノアが息を呑む。
だが。
すぐに思い出す。
マンチニール。
まだある。
毒樹。
あれなら。
彼の攻撃でも。
毒が舞う。
いける。
ノアが能力を使う。
マンチニールの森が動く。
だが。
その瞬間。
消えた。
一瞬。
塵。
いや。
塵すら残らない。
斬られた。
細かく。
あまりにも細かく。
毒が舞うとか。
そんなレベルじゃない。
毒の成分すら。
斬り刻まれていた。
ノアが呆然とする。
レギウスが。
もう一度聞いた。
「彼らを殺したのは」
「お前か!!」
怒り。
ノアには。
それで十分だった。
完全に心が折れる。
ノアが震える。
涙目で。
謝った。
「ごめんなさい……」
静寂。
レギウスが言う。
「そうか」
短く。
それだけ。
そして。
背を向ける。
歩き出す。
ノアが目を見開く。
「たすか……」
最後まで言えなかった。
次の瞬間。
ノアの身体が。
塵になった。
音もなく。
崩れた。
能力ランキング第5位。
ノア。
死亡。
これで。
ガーデンは。
完全に消えた。
◇
アルディオは。
固まっていた。
冷や汗が止まらない。
周囲。
神話の怪物達。
ケルベロス。
ガルーダ。
サキュバス。
デュラハン。
四体。
どれも。
異常な殺気を放っている。
アルディオが呟く。
「この化け物は……」
「なんだ……」
ドルガンがアルディオを見ずに答える。
「俺の能力」
「『地獄召喚』だ」
アルディオの思考が止まる。
理解できない。
なんだその能力。
能力の範囲を超えている。
もはや。
概念が違う。
アルディオが下を向く。
震える拳。
だが。
折れない。
ここまで来た。
誰より努力した。
誰より覚醒した。
ここで終われない。
左手を出す。
もう一度。
今度は最大出力で!!
アルディオが叫ぶ。
「全核……」
その瞬間。
ベロッ。
ケルベロスが。
アルディオの顔を舐めた。
ガシッ。
ガルーダが。
左腕を掴む。
サキュバスが笑う。
妖しく。
スッ。
デュラハンの剣が。
脳天で止まる。
あと数ミリ。
死。
アルディオが固まる。
今。
何回死んだ?
一瞬で。
何度も死を見た。
圧倒的。
絶望。
そして。
ドルガン。
彼は。
一度も。
アルディオを見ていなかった。
視線の先。
ずっと。
レイ。
泣き崩れる少女だけを。
見ていた。




