第194話 全核崩壊
マッドは。
クロエを待っていた。
だが。
来ない。
遅い。
嫌な予感。
胸騒ぎが止まらない。
その時。
足音。
静かに。
近づいてくる。
マッドが顔を上げる。
そこにいた。
アルディオ。
一人だった。
周囲に。
クロエはいない。
マッドの顔が青ざめる。
まさか。
アルディオが笑う。
マッドの顔を見て。
楽しそうに。
「残念だったな」
「あの女は死んだよ」
静寂。
マッドの瞳が揺れる。
涙が。
こぼれた。
クロエ。
仲間になったばかりだった。
でも。
思えば。
ずっと見てきた。
フォーサと出会った国を出た後。
酒場で出会ってから。
ずっと。
長い時間を。
共に過ごしたような。
そんな感覚だった。
仲間になれて。
本当に嬉しかった。
本当に。
好きだった。
マッドが拳を握る。
強く。
震えながら。
「後は僕が!!」
叫ぶ。
そして。
走った。
後ろへ。
全力で。
アルディオが笑う。
「なんだ?」
「逃げるのか?」
マッドは走る。
涙を流しながら。
罠の場所へ。
◇
「なに……これ……」
レイが立ち尽くしていた。
目の前。
地面が消えていた。
だが。
普通の戦いじゃない。
違う。
壊れたんじゃない。
消えた。
存在そのものが。
なくなったような跡。
スエルテが周囲を見る。
「能力だね」
フォーサが辺りを見る。
不安そうに。
「誰もいないよ?」
そう。
森が止まってから。
不自然だった。
静かすぎる。
まるで。
人が消えたみたいに。
戦いの音が。
何一つ聞こえない。
レイが呟く。
「誰が生き残ってるの……」
脳裏に浮かぶ。
マッド。
クロエ。
ディオン。
スライム。
全員。
無事なのか。
その時。
ドゴォォォン。
近くで轟音。
全員の顔が変わる。
レイが叫ぶ。
「行くよ!!」
三人が走った。
音の方へ。
◇
マッドは。
必死に走っていた。
息が切れる。
涙が止まらない。
それでも。
止まらない。
背後から。
足音。
アルディオがついてくる。
歩きながら。
まるで散歩。
「追いかけっこは嫌いなんだが」
呆れたように。
言う。
そして。
マッドが止まった。
ここだ。
罠の中心。
マッドが振り向く。
息を整える。
構える。
「さすがに……」
「逃げ切れませんね……」
アルディオが止まる。
そして。
笑った。
その瞬間。
マッドの背筋が凍る。
悪寒。
アルディオが口を開く。
「ここに」
「罠があるんだろ?」
マッドの顔が凍った。
バレている。
アルディオが笑う。
「悪いが」
「お前たちの陽動は」
「わかりやすすぎる」
静寂。
そう。
アルディオは。
馬鹿ではない。
むしろ。
冷静で慎重だった。
自分が弱かった頃を知っている。
だから。
慢心しない。
最上位の実力がありながら。
誰よりも警戒する。
そこが。
他の最上位と違った。
マッドの額から汗が流れる。
アルディオが呟く。
「罠にハマって死にましたじゃ」
「笑いにもならん」
「左手を使う」
アルディオが左手を出す。
マッドが目を見開く。
左手。
異常だった。
皮膚がない。
血管が剥き出し。
ドクドク。
脈打つ。
うねうねと。
蠢いていた。
生きているように。
不気味だった。
マッドの声が震える。
「なんですか……それは……」
アルディオが笑う。
狂気の笑み。
左手を前へ向けた。
「くらえ」
静寂。
次の瞬間。
アルディオが叫ぶ。
「全核崩壊!!!!」




