第193話 影姫クロエ
クロエとマッドは。
息を潜めていた。
アルディオを倒す。
そのために。
短い時間で。
作戦を立てる。
静寂。
クロエが言う。
「正面からは無理よ」
即答だった。
当然。
相手は化け物。
周囲ごと。
存在を崩壊させる能力。
本来。
自分達で敵うはずがない。
だが。
唯一。
可能性があるとすれば。
経験。
クロエがマッドを見る。
「あなた」
「最上位と何度も戦ったんでしょ?」
マッドが頷く。
そして。
これまでの戦いを話した。
ネメシス。
カイ。
ノクリア。
モルド。
最上位との戦い。
その全てを。
クロエは黙って聞く。
思考する。
組み立てる。
勝ち筋を。
そして。
クロエが決めた。
「マッド」
「あなたは落とし穴を作って」
「私が陽動する」
「そして、落ちたところで」
「穴の中の影と周囲の泥を棘にして」
「串刺しにするわ」
今までの戦い。
その応用だった。
影。
泥。
二人の能力を最大限使う。
マッドが黙って頷く。
クロエが。
マッドの背中を叩いた。
「頼んだわよ」
静かな声。
二人は分かれた。
◇
アルディオは。
歩いていた。
静かに。
クロエとマッドを探していた。
焦ってはいない。
冷静だった。
この先。
戦うべき相手がいる。
最上位。
だからこそ。
左手は温存したかった。
左手。
悪魔の手。
能力ランキング第9位。
モルドを消し去った力。
広範囲に。
存在を崩壊させる。
禁忌。
故に。
今は右手だけで戦っていた。
その時。
影が揺れた。
クロエが現れる。
アルディオの前に。
クロエが笑う。
少しだけ。
挑発するように。
「私の影」
「便利でしょ」
アルディオが笑う。
「あぁ」
「面倒な能力だ」
次の瞬間。
右手が上がる。
能力発動。
クロエは即座に影へ沈む。
ドゴォン。
空間が崩壊する。
だが。
クロエはもういない。
回避。
再び。
交わされた。
アルディオが舌打ちする。
「チ」
少しずつ。
苛立ち始めていた。
◇
一方。
マッドは。
必死に罠を作っていた。
泥を操る。
深い穴を作る。
だが。
手が震えていた。
怖い。
正直。
怖かった。
覚悟は決めた。
それでも。
嫌な予感が消えない。
本能が叫ぶ。
あの敵は。
関わってはいけない。
危険。
異常。
災害。
そんな感覚だった。
マッドが首を振る。
弱気を振り払う。
「やると決めたんだ」
呟く。
自分に言い聞かせるように。
そして。
準備完了。
マッドが走る。
クロエの元へ。
◇
クロエは。
攻撃を避け続けていた。
影へ潜る。
出る。
また潜る。
何度も。
何度も。
アルディオの攻撃は単調だった。
右手が上がる。
その瞬間。
攻撃が飛ぶ。
だから。
近づかなければ。
何とかなる。
クロエは。
ギリギリで避け続けた。
そして。
その時。
遠く。
泥が跳ねた。
マッドの合図。
準備完了。
クロエの目が変わる。
勝負。
クロエが。
マッドの方へ走ろうとした。
その瞬間。
ガクッ。
足から力が抜けた。
クロエが目を見開く。
「あれ……?」
足が動かない。
身体が言うことを聞かない。
そのまま。
倒れた。
ドサッ。
クロエが理解する。
限界だった。
とっくに。
身体は壊れていた。
森を飲み込んだ一撃。
何千もの異形との戦い。
大異形を飲み込んだ。
限界を超えた一撃。
そして。
アストラの死。
ディオンの死。
心も。
身体も。
全部。
限界だった。
クロエの身体は。
もう。
ピクリとも動かなかった。
アルディオが笑う。
ゆっくり近づく。
「お前」
クロエを見る。
少し感心したように。
「相当無理をしたな」
クロエは動けない。
何もできない。
アルディオが右手を上げる。
終わりだった。
「じゃあな」
静寂。
クロエは。
空を見た。
不思議と。
怖くなかった。
脳裏に浮かぶ。
アストラ。
ディオン。
二人の顔。
クロエが小さく呟く。
「ディオン……」
涙が流れる。
でも。
笑っていた。
「愛してる」
静寂。
そして。
「アス姉……」
「愛してる」
次の瞬間。
ドゴォン。
クロエの身体が。
崩れ去った。
能力ランキング第19位。
クロエ。
死亡。




