第186話 第2位と第11位
クロエは。
目の前に迫る。
大異形を。
ただ見つめていた。
巨大すぎる。
圧倒的。
逃げ場はない。
死。
確実だった。
クロエの瞳が揺れる。
せっかく。
見つけたのに。
生きる理由を。
ディオン。
もう一度。
前を向けたのに。
こんな終わり方。
嫌だった。
クロエが小さく呟く。
「アス姉……」
下を向く。
そこにあった。
自分の影。
その瞬間。
クロエの目が変わる。
拳を握る。
まだ。
終われない。
今の自分なら。
あの大異形を……
クロエが前を向く。
能力。
『影喰い』
発動。
次の瞬間。
大異形の足元。
巨大な影が広がる。
黒い闇。
深淵。
そこから。
現れた。
巨大な獣。
禍々しい。
限界。
その先。
クロエは。
さらに踏み込んだ。
「うああああああああ!!」
クロエが絶叫する。
それに応えるように。
影の獣が。
口を開く。
そして。
大異形へ襲いかかった。
空中都市。
その上から。
クロノが目を見開く。
「なんじゃ……」
驚愕。
その光景は。
神話だった。
怪物と怪物。
異形と影。
二つの怪物が。
ぶつかる。
大異形が暴れる。
だが。
影の獣に。
ダメージはない。
そのまま飲み込む。
丸ごと。
圧倒的に。
喰らう。
静寂。
そして。
次の瞬間。
大異形が消えた。
影の獣も。
消えた。
全てが終わる。
クロエが膝から崩れる。
「ぜぇ……」
「ぜぇ……」
呼吸が乱れる。
視界が揺れる。
意識が遠い。
限界だった。
指一本。
動かせない。
その時。
笑い声が響く。
「ふぉっふぉっふぉ」
クロノだった。
空中都市から。
降りてきた。
ゆっくり。
歩いてくる。
だが。
クロエは。
もう顔を上げられない。
クロノが笑う。
「クロエ……おぬし」
「最上位になったのか?」
最大級の賛辞だった。
クロノが認めた。
だが。
クロエは動けない。
何もできない。
クロノが笑顔で言う。
「その強さに」
「最大の敬意を払い」
「本気で殺すかのぉ」
次の瞬間。
クロノが消えた。
そして。
空が唸る。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
嫌な音。
クロエの瞳が揺れる。
空。
そこにあった。
空中都市。
落ちてくる。
巨大な都市が。
そのまま。
落下していた。
あの時。
第85位の国を。
滅ぼした。
禁忌の技。
クロノ最大の技。
空中都市落下。
クロエは。
理解した。
終わりだ。
もう。
助からない。
命を諦めた。
その時だった。
何かが。
空へ飛ぶ。
一直線。
速い。
クロエが目を見開く。
ディオンだった。
「クロエ!!!」
叫び声。
クロエが震える。
ディオンが叫ぶ。
「お前は生きろ!!」
「告白の返事できなくてごめんな!!」
ディオンが拳を握る。
空中都市へ。
向ける。
覚悟の目。
「これが俺の……」
「全てだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その瞬間。
ディオンの脳裏に。
浮かんだ。
あの日。
ドルガンと出会った日。
◇
体術なら。
誰にも負けなかった。
速さ。
力。
技術。
全てに自信があった。
だが。
この世界は。
能力。
能力。
能力。
全ては能力で決まる。
体術は評価されない。
自分は異端だった。
認められない。
そんな時。
出会った。
一人の男に。
ドルガン。
巨大な男。
一目で分かった。
強い。
自分より。
遥かに。
強い。
「お前」
「何者だ」
ディオンが問う。
ドルガンが逆に問う。
「お前の能力を教えろ」
その言葉で。
ディオンの中で。
何かが切れた。
また能力。
またそれか。
能力。
能力。
能力。
ディオンが歯を食いしばる。
「うるせぇよ……」
拳を握る。
「うるせぇ!!」
次の瞬間。
殴った。
全力で。
ドゴン!!
完璧な拳。
だが。
ディオンの顔が凍る。
「は……?」
ありえない。
まるで。
効いていない。
赤ん坊のパンチ。
自分の拳が。
そう感じるほど。
絶望的だった。
ドルガンが。
少し笑った。
「お前……」
「やるな」
その日から。
地獄が始まった。




