第176話 動き出す森
レイ達はしばらく休んでいた。
静かな時間。
だが。
心は休まらない。
カイの死。
アストラの死。
あまりにも大きかった。
レイは静かに座る。
クロエも黙っていた。
マッドも。
フォーサも。
誰も軽々しく話せなかった。
重い空気。
静寂。
だが。
世界は。
安らぎを長くは与えない。
外が騒がしい。
兵士達が走り回っていた。
怒号。
叫び声。
慌ただしい足音。
異常だった。
大戦争の時。
いや。
それ以上。
レイが顔を上げる。
嫌な予感。
レイ達は急いでディオンの元へ向かった。
◇
ディオンが焦っていた。
珍しい。
あの冷静な男が。
明らかに動揺している。
兵士達に指示を飛ばす。
「西の部隊を回せ!」
「避難を急がせろ!」
「とにかく情報をくれ!」
スライムも慌てていた。
「大変だよぉぉぉ!!」
「やばいよぉぉぉ!!」
レイが前に出る。
「何があったの?」
ディオンがレイたちを見る。
表情が重い。
そして答えた。
「謎の組織が暴れている」
静寂。
クロエが目を細める。
ここにきて。
新しい組織。
クロエが言う。
「またディバイドでも名乗ってるのかしら?」
ディオンが首を振る。
「いや」
短く否定する。
そして。
低い声で言った。
「奴らは」
「ガーデンと名乗っている」
レイ達が固まる。
ガーデン。
花園。
楽園。
だが。
そんな名前とは裏腹に。
ディオンの焦り方が異常だった。
レイが聞く。
「その組織は何をしたの?」
ディオンが口を閉じる。
数秒。
沈黙。
そして。
息を吐いた。
「森の動物が全て」
「殺された」
静寂。
全員が固まる。
動物?
意味が分からない。
マッドが目を見開く。
フォーサも固まる。
クロエの目が鋭くなる。
ディオンは続けた。
さらに重い声で。
「殺したのは」
「森本体だ」
レイが眉をひそめる。
意味が分からない。
森が殺す?
そんな馬鹿な。
その時。
クロエが口を開く。
「そんなでたらめなことができるのは」
「第5位しかいない」
ディオンが頷く。
「能力ランキング第5位」
「ノア」
「能力」
「『植物水遣』」
レイ達が考える。
植物水遣。
名前だけ聞けば弱そうだ。
地味な能力。
だが。
森ごと動かせるなら。
話が違う。
とんでもない。
規格外。
だが。
ディオンの話は終わらなかった。
「たくさんの森が動き出した」
「そして今」
「五つの国が崩壊した」
マッドが固まる。
「はい……?」
間抜けな声だった。
だが。
当然だった。
誰だってそうなる。
森が。
植物が。
国を襲う。
それだけでも異常。
なのに。
すでに五か国。
崩壊。
あまりにも速い。
あまりにも異常。
フォーサが青ざめる。
「そんな……」
クロエの顔も険しくなる。
ディオンが前を見る。
覚悟の目だった。
「これを止めなければ」
「世界から動物が消える」
重い声。
「人類諸共な」
静寂。
空気が凍る。
レイの目が冷えた。
静かに。
だが。
明確な殺意を宿して。
「ノア……」
誰も喋らない。
レイが一歩前へ出た。
静かな声。
「殺しに行くわ」
◇
小さな道場。
静かな場所。
だが。
遠くから聞こえる。
地響き。
ズズズズズ……
森が迫っていた。
木々が。
生き物のように動く。
異常な光景。
その道場に。
三人の剣士が立っていた。
一人。
ひげを綺麗に整え。
ポマードで固めた紳士の男。
落ち着いた声で言う。
「うーん」
「レギウス様がいない時を狙ってきましたね」
二人目。
赤い剣を持つ男。
静かな目。
「やるしかない」
短く言った。
三人目。
頭に鉢巻を巻いた男。
豪快に笑う。
「森か!」
「ぶっ飛ばしてやるぜ!!」
三人は前を見る。
迫る森。
逃げ場はない。
だが。
誰一人。
怯えていなかった。
彼らは。
能力ランキング第1位。
レギウスが師範を務める。
道場の剣士達だった。




