第167話 すれ違う姉妹
クロエが睨んでいた。
鋭く。
冷たく。
敵を見る目で。
アストラは動けなかった。
三年ぶりの再会。
やっと会えた妹。
ずっと助けたかった存在。
だが。
その再会は。
感動的なものではなかった。
重い空気。
静寂。
その時だった。
「クロエ!!」
声が響く。
クロエが振り向く。
そこにいた。
大臣。
アストラの目が冷える。
こいつだ。
こいつがクロエを。
アストラがレイピアを構える。
殺意。
大臣が顔を青ざめさせる。
身体をのけぞらせた。
その時。
「やめて!!」
クロエが飛び出した。
アストラの前に立つ。
庇うように。
アストラが目を見開く。
「クロエ……!?」
クロエは涙目だった。
震えていた。
だが。
強い目でアストラを見る。
「私の夫を傷つけないで!!」
静寂。
アストラが固まる。
信じられなかった。
後ろの大臣を見る。
大臣は。
クロエの背中に隠れながら。
笑っていた。
気持ち悪い笑顔。
アストラの怒りが爆発する。
叫んだ。
「その男は!!」
「あなたを利用しているだけなのよ!!」
静寂。
クロエが一瞬黙る。
俯く。
数秒。
そして。
ゆっくり顔を上げた。
目には涙。
だが。
怒りもあった。
クロエが言う。
「だったら何!?」
アストラが止まる。
クロエの声が震える。
怒り。
悲しみ。
全部混ざっていた。
「私が利用されているから何?」
「お父さんもお母さんもアス姉も!!」
クロエの涙が零れる。
止まらない。
「私がここにいる間!!」
「一度でも来てくれたことがあった!?」
静寂。
重かった。
言葉が。
あまりにも。
アストラが黙る。
何も言えない。
その通りだった。
両親だけじゃない。
私も。
クロエを見ていなかった。
二年間。
幸せになったと。
勝手に思い込んで。
自分を納得させた。
だが、クロエが利用されていると聞いて。
セレスの元で。
一年間。
鍛えた。
気付けば。
三年。
三年間。
一度も。
会いに来なかった。
アストラの拳が震える。
何も言い返せない。
その時。
後ろから声。
冷たい声。
「クロエ、そいつを殺せ」
大臣だった。
クロエが涙を拭う。
そして。
感情を消した。
「はい」
冷たい返事。
従順だった。
アストラの胸が痛む。
クロエの能力が発動する。
『影喰い』
だが。
次の瞬間。
クロエの目が見開かれた。
「あれ?」
影が動かない。
能力が発動しない。
クロエが困惑する。
その瞬間。
アストラが動いた。
速い。
一瞬だった。
「なっ……」
クロエを抱きかかえる。
横抱き。
クロエが焦る。
「離して!!」
暴れる。
振り払おうとする。
だが。
無理だった。
クロエは身体能力が高くない。
アストラとは違う。
全く動けない。
アストラが大臣を見る。
殺意に満ちた目。
大臣が震える。
次の瞬間。
アストラは消えた。
クロエを抱えたまま。
その場から離脱した。
◇
遠く。
静かな場所。
セレスの家。
あの狂人が暮らしていた家。
今は。
誰もいない。
ドルガンによって。
目玉のコレクションも。
全て消えていた。
静寂。
アストラがクロエを下ろす。
クロエがすぐに距離を取る。
怒りに満ちた顔。
叫ぶ。
「どういうつもりなの!!」
「アス姉!!」
怒り。
悲しみ。
混乱。
全部が混ざっていた。
アストラはクロエを静かに見る。
三年間。
会いたかった妹を。
アストラが口を開く。
「クロエ……」
声が震える。
クロエが睨む。
アストラが続けた。
「話をさせて」
静かな声。
真っ直ぐに。
そして。
小さく言った。
「最後に」




