第160話 最初の収集
アストラは呆然と立ち尽くしていた。
目の前で。
女が崩れ落ちる。
血が広がる。
赤く。
静かに。
アストラの思考が止まる。
その時。
足音。
ターゲットの男がやってきた。
「どうした!?」
苛立った声。
執事が冷静に答える。
女の懐を探る。
そして。
ナイフを取り出した。
男に見せる。
「これを持っていました」
男が一瞬黙る。
次の瞬間。
笑った。
「さすがだな!」
満足そうだった。
男が執事を見る。
「能力ランキング第81位の」
「『透視』は」
アストラが目を見開く。
透視。
この男の能力か。
だからバレた。
隠していたナイフも。
見抜かれた。
執事が女の死体を持ち上げる。
慣れていた。
まるで物のように。
片付けていく。
その時。
アストラの中に疑問が生まれる。
なぜ。
自分はバレなかった?
女に気を取られていたからか。
それとも。
まだ見られていないだけか。
分からない。
だが。
今はどうでもいい。
もう決まった。
アストラが一人で。
この男を殺す。
◇
寝室。
広い。
豪華。
気持ち悪い空間。
男が扉を閉める。
ため息をつく。
「まったく」
「女というのは油断ならんな」
アストラは黙る。
男が振り向く。
笑っていた。
下品に。
「やはり」
目が気持ち悪い。
濁っている。
欲望しかない。
男が舌なめずりする。
「男を知る前の女が一番だ」
アストラの胸に嫌悪が走る。
本当に。
気持ち悪かった。
男が命じる。
「服を脱げ」
静寂。
その瞬間。
アストラの中で何かが切れた。
決めた。
殺す。
アストラが静かに動く。
ナイフを取り出す。
男は気付かない。
油断しきっている。
アストラが一瞬で背後へ回る。
速い。
音もない。
返り血を浴びない位置。
完璧。
そして。
シュッ。
刃が走る。
男の首を斬った。
「な……」
男の目が見開く。
理解できていない。
血が噴き出す。
男が膝をつく。
崩れる。
ドサッ。
終わった。
わずかな時間だった。
静寂。
アストラの呼吸が荒い。
手が震える。
終わった。
いや。
まだだ。
アストラが震える手で瓶を取り出す。
特殊な液体が入っていた。
セレスから渡されたもの。
目の保存液。
アストラの顔が青ざめる。
「う……」
吐き気。
胃がひっくり返る。
気持ち悪い。
嫌だ。
やりたくない。
だが。
やるしかない。
クロエのため。
アストラが歯を食いしばる。
震える手を伸ばす。
男の顔へ。
そして。
目を抉った。
ぐちゃり。
アストラの呼吸が止まる。
吐き気が限界だった。
それでも。
二つ。
瓶へ入れる。
終わった。
アストラの初めての収集だった。
◇
時間が経つ。
執事が寝室へやってきた。
静かに扉の前に立つ。
「旦那様」
返事がない。
執事の眉が動く。
もう一度。
「旦那様」
静寂。
嫌な予感。
執事が扉を開ける。
ギィ。
中を見た瞬間。
目を見開いた。
「な……」
男が倒れていた。
首を斬られている。
そして。
目がない。
空洞。
異様だった。
執事の顔が歪む。
さらに。
窓が開いていた。
夜風が吹く。
「くそ!!」
執事が叫ぶ。
だが。
慌てなかった。
冷静だった。
すぐに能力を使う。
能力『透視』
周辺を見る。
逃げた方向を探る。
その時だった。
背後。
女の声。
静かに響く。
「だめよ」
執事が固まる。
声が近い。
あまりにも。
「弟子の初舞台を汚しちゃ」
次の瞬間。
ゴン。
鈍い音。
執事の頭が割れた。
血が飛ぶ。
執事が崩れ落ちる。
そこにいたのは。
セレス。
メイスを持っていた。
血が滴る。
セレスが微笑む。
「よくできました」
静かな声。
優しかった。
そして。
執事の目を抉って瓶へ詰めた。
こうして。
アストラの初めての計画殺人は。
無事終わった。




