第159話 初めての獲物
男の屋敷に着いた。
大きかった。
豪華。
派手。
金の匂いがした。
アストラは屋敷を見上げる。
気分が悪い。
だが。
表情には出さない。
男の後ろを歩く。
重い扉が開く。
ギィ。
中はさらに豪華だった。
赤い絨毯。
高価な絵画。
シャンデリア。
趣味が悪い。
そして。
目に入った。
大勢の女。
メイド姿。
若い女ばかり。
全員。
目が死んでいた。
笑っていない。
生気がない。
アストラの胸がざわつく。
クロエを思い出す。
静かに怒りが湧いた。
大広間へ着く。
男が豪華な椅子へ腰掛けた。
王様気取り。
気持ち悪い。
男がアストラを見る。
「お前、名前は?」
アストラは笑顔を作る。
「アストラちゃんでーす☆」
まだ慣れない。
違和感しかない。
自分で言ってて気持ち悪い。
男は少し黙った。
そして。
「まぁ名前はどうでもいいか……」
興味なさそうだった。
次の瞬間。
バサッ。
札束が机に置かれる。
大量。
アストラの目が細くなる。
男が笑う。
下品に。
「お前みたいな女は初めてだ」
気味の悪い目。
値踏みしていた。
そして言う。
「俺がお前を買う」
静寂。
アストラが止まる。
理解した。
こいつ。
少女を買っているのか。
人間として扱っていない。
商品。
物。
最低だった。
男は続ける。
「まずは今晩」
「俺と一夜を共にしろ」
いやらしく笑う。
「な……」
アストラが固まる。
危ない。
素が出るところだった。
冷静に。
冷静に。
演じろ。
アストラは無理やり笑う。
「いいよぉ☆」
男が満足そうに笑う。
「よし」
メイド達に命じる。
「客室へ案内しろ」
アストラは連れて行かれた。
◇
客室。
中に入る。
そこには女が一人いた。
若い。
だが。
目を見れば分かる。
殺意。
燃えていた。
濃い憎悪。
アストラが軽い口調で話しかける。
「ねー、そんな顔してどうしたのー?」
その瞬間だった。
シュッ。
女がナイフを。
アストラの目の前に突き出す。
速い。
普通の人間なら反応できない。
だが。
アストラには遅すぎた。
止まって見える。
瞬き一つしなかった。
女は驚いた顔をしたが。
すぐ真顔になる。
「黙りなさい」
殺気。
本気だった。
だが。
アストラは気にせず聞く。
「あの男を殺す気なのー?」
女の目が揺れる。
沈黙。
やがて。
ナイフを下ろした。
ベッドに座る。
疲れたように。
そして言う。
「……そうよ」
静かな声。
だが。
怒りで震えていた。
女が俯く。
「あの男は」
「私の婚約者を殺したの」
「私を買うために」
アストラが黙る。
女が唇を噛む。
涙が滲む。
静寂。
アストラは理解した。
そういうことか。
相当な恨みを買っている。
想像以上に。
アストラが口を開く。
「殺すのはいいけどー」
女が顔を上げる。
アストラが笑う。
にっこり。
そして。
「目は傷つけないでね☆」
静寂。
女が固まる。
意味が分からない。
何を言っているのか。
女は唖然としていた。
アストラはただ笑っていた。
◇
夜。
メイドに案内される。
男の寝室へ。
アストラと女。
二人で歩く。
静かだった。
だが。
二人とも隠していた。
ナイフ。
服の内側に。
アストラが自分の手を見る。
震えていた。
止まらない。
怖い。
男と寝るからじゃない。
この後に待つもの。
惨劇。
それが怖かった。
親を殺した時とは違う。
あの時は衝動だった。
怒りだけだった。
だが今は違う。
思考がはっきりしている。
理解できてしまう。
自分が。
人を殺す姿。
目を抉る姿。
鮮明に想像できる。
吐き気が込み上げる。
気持ち悪い。
足が少し止まりかける。
その時だった。
「おい!!」
怒声。
空気が凍る。
「貴様!!」
執事だった。
鋭い目。
女の腕を掴む。
強く。
女が目を見開く。
執事が叫ぶ。
「ナイフを持っているな!!」
バレた。
女の顔が青ざめる。
なぜ。
どこで。
次の瞬間。
躊躇がなかった。
グサッ。
執事のナイフが。
女の心臓を貫いた。




