第158話 狂気の仮面
セレスから一枚の紙を渡された。
アストラが受け取る。
紙には。
住所。
名前。
特徴。
細かく書かれていた。
今回の標的。
目を収集する人間。
アストラが紙を見る。
眉をひそめる。
「何故この人?」
セレスが紅茶を飲みながら答える。
「その人はね」
「女を奴隷のように扱っているの」
アストラの顔が険しくなる。
セレスは続ける。
頬を赤らめながら。
「そんな目で見られたら……」
「興奮するわぁ」
手を股に当てる。
静寂。
アストラは後悔した。
聞くんじゃなかった。
この女に。
まともな理由なんて期待する方が間違っていた。
アストラが立ち上がる。
「やるしかないか」
そう呟き。
レイピアを手に取ろうとした。
その時だった。
「あなた」
「そのまま行く気?」
セレスが止める。
アストラが振り向き、首を傾げる。
「だめなの?」
セレスが即答した。
「だめよ」
強い否定だった。
セレスがアストラを見る。
真剣な目。
「そんな普通の少女が」
「目を抉る殺人なんてしたら」
「私に唆されたのがバレちゃうじゃない」
アストラが固まる。
理解した。
この女は。
ただ衝動で殺しているわけじゃない。
知的だ。
痕跡。
手口。
世間の印象。
全部計算している。
知的な猟奇殺人鬼。
最悪だった。
アストラが聞く。
「じゃあどうすれば……」
セレスが少し考える。
顎に手を当てる。
数秒後。
ぱっと顔が明るくなる。
「良いこと考えた!」
嫌な予感しかしない。
セレスが奥から何かを持ってくる。
服だった。
アストラが固まる。
短パン。
オフショルダー。
露出が多い。
セレスがにこっと笑う。
「あなたはこれから猟奇殺人者になる」
嬉しそうだった。
そして言う。
「だったらもっと派手にならないと!!」
アストラが一歩下がる。
「いや、ちょっと……」
遅かった。
セレスが腕を掴む。
「行くわよ」
そのまま。
どこかへ連れていかれた。
◇
気付けば。
アストラは鏡の前に立っていた。
そして。
固まった。
ツインテール。
派手な化粧。
オフショルダー。
下着が見えそうな短パン。
露出が多い。
派手。
軽そう。
最悪だった。
「なにこれ……」
アストラが呆然と呟く。
鏡の中の自分。
知らない女だった。
セレスが満足そうに頷く。
「いい感じね」
アストラが振り向く。
「全然よくないんだけど」
セレスが指を立てる。
「だめよ」
アストラが固まる。
セレスが近づく。
真顔で言う。
「その顔と言葉」
静寂。
そして。
口角を上げる。
「もっと明るく」
「そして」
一拍。
「いかれなさい」
アストラは下を向いた。
最悪だ。
なんでこんなことに。
だが。
やるしかない。
クロエのため。
全部。
クロエのため。
アストラは深呼吸する。
そして。
無理やり笑顔を作った。
「アストラちゃんでーす☆」
沈黙。
セレスが目を見開く。
次の瞬間。
拍手した。
「いいじゃない!!」
満面の笑み。
大喜びだった。
アストラは思う。
終わった。
自分が自分じゃなくなっていく。
でも。
仕方ない。
こうして。
今のアストラが誕生した。
◇
アストラは町へ来ていた。
標的がいる町。
賑わっていた。
人が多い。
店。
笑い声。
活気。
普通の町。
だが。
アストラは居心地が悪かった。
視線。
男達の目が分かる。
こちらを見ている。
露骨に。
舐めるように。
怖くはない。
だが。
気持ち悪かった。
そんな時だった。
「随分派手な娘だな」
低い声。
アストラが振り向く。
そこにいた。
男。
周囲には女が数人。
怯えた目。
男の顔を見る。
紙の特徴と一致した。
標的。
ターゲットの男だ。
アストラの身体がわずかに強張る。
男がアストラを見る。
上から下まで。
いやらしく。
品定めするように。
気持ち悪い。
男が笑う。
「お前」
指を差す。
「俺の屋敷へこい」
命令口調だった。
アストラは数秒黙る。
心臓が鳴る。
ここからだ。
初めての計画殺人。
逃げられない。
アストラは笑顔を作る。
作り笑い。
そして。
明るく答えた。
「おじさん、お金持ってるー?☆」
男が笑う。
「あぁ、もちろん」
こうして。
アストラは。
男の後ろを歩き出した。
狩るために。




