第150話 愛した妹
レイは走った。
全力で。
涙で視界が滲む。
それでも。
止まれなかった。
カイの元へ。
兄の元へ。
「カイ兄!!」
叫ぶ。
声が震える。
カイの身体が崩れかける。
レイは必死に支えた。
両腕で抱える。
血が手につく。
温かい。
でも。
どんどん失われていく。
レイの涙が落ちる。
ぽたぽたと。
カイの顔に落ちた。
「カイ兄!!」
「しっかりして!!」
レイが泣き叫ぶ。
カイがうっすら目を開けた。
焦点が合わない。
だが。
確かに。
レイを見ていた。
「レイ……」
弱々しい声。
レイが顔を近づける。
カイが苦しそうに息を吐く。
そして。
小さく笑った。
「俺は……」
血を吐く。
それでも。
言葉を続ける。
「最低だったな」
静かな声だった。
レイが首を振る。
何度も。
涙を撒き散らしながら。
叫ぶ。
「私はただ!!」
息が詰まる。
涙が止まらない。
「家族が幸せなら……」
「それでよかった!!」
レイがカイを強く抱きしめる。
まるで。
消えてしまわないように。
「カイ兄のこと……」
涙でぐしゃぐしゃの顔。
「もっと考えればよかった!!」
叫ぶ。
後悔。
後悔しかない。
「私は何も……」
声にならない。
ただ泣いた。
子供みたいに。
カイが優しく笑う。
穏やかだった。
今までで一番。
優しい顔だった。
「レイ」
静かな声。
レイが顔を上げる。
カイが言う。
「その言葉だけで」
呼吸が浅い。
それでも。
笑っていた。
「もう充分だ」
レイの瞳から涙が溢れる。
止まらない。
カイが最後に口を開く。
「ありがとう、レイ」
優しい声。
そして。
「愛している」
静寂。
レイの瞳が揺れる。
カイの目が。
ゆっくり閉じられた。
もう。
開かない。
風が吹く。
静かに。
レイの髪を揺らした。
能力ランキング第7位。
カイ。
最高防御。
ノーランクの城災。
世界を混沌へ導いた。
最悪の存在。
だが今は。
ただ。
妹を最後まで愛した。
優しい兄だった。
能力ランキング第7位。
カイ。
死亡。
◇
レイは空を見上げた。
何も見えない。
涙で。
全部ぼやけていた。
そして。
叫ぶ。
「ああああああぁぁぁぁ!!」
絶叫。
悲痛な叫び。
最後の家族を失った。
レイは泣いた。
ただ泣いた。
その姿は。
家族を失った。
ただの十七歳の少女だった。
後悔だけが残った。
その時だった。
スッ。
冷たい感触。
レイの首元に。
刃が触れていた。
レイの身体が止まる。
そこにいたのは。
ノクリア。
剣を向けていた。
目は冷たい。
怒りで燃えていた。
「お前」
低い声。
レイを睨む。
「カイの味方だな?」
静寂。
ノクリアにとって。
カイは仇だった。
自分の国を潰した男。
仲間を殺した男。
フウ。
テオ。
ダッシュ。
大切な仲間。
全部。
殺された。
許せるはずがない。
そして。
その妹。
レイ。
ノクリアは答えを待った。
静かに。
だが。
レイは動かない。
何も言わない。
答える気力すらなかった。
心が空っぽだった。
ノクリアが剣を握り直す。
殺意が増す。
「答えないということは」
「そういうことか」
覚悟を決める。
剣に力が入る。
その瞬間。
「やめろぉぉぉぉ!!」
叫び声。
ノクリアが目を見開く。
地面が揺れた。
ドロッ。
地面が泥に変わる。
ノクリアの足元が沈む。
「ちっ」
即座に判断。
ノクリアが跳ぶ。
一瞬で泥地帯を抜け出す。
近くへ着地。
砂埃が舞う。
ノクリアが顔を上げる。
睨む先。
そこにいたのは。
マッド。
怒りに震えていた。
目が鋭い。
ノクリアが低く言う。
「なんのつもりだ」
マッドが前へ出る。
レイを守るように。
その前に立つ。
身体は震えていた。
怖い。
相手は。
能力ランキング第8位。
ノクリア。
怪物だ。
勝てる保証なんてない。
むしろ。
勝てるはずがない。
それでも。
退かなかった。
マッドが叫ぶ。
「レイさんに手を出すな!!」
拳を握る。
強く。
静寂。
風が吹く。
ノクリアが剣を構え直す。
鋭い目。
マッドを見据える。
「そうか」
低い声。
殺気が溢れる。
圧倒的。
「お前から殺す」
空気が凍った。
マッドは。
能力ランキング第8位。
ノクリアと対峙した。




