第144話 兄の真実
レイ達は走っていた。
全力で。
故郷へ向かって。
風を切る。
息が荒い。
だが止まらない。
カイ。
兄。
十二年ぶりの再会。
その時が近づいていた。
そして。
ついに辿り着く。
レイの故郷。
全てが始まった場所。
全員が足を止めた。
「これは……」
マッドが言葉を失う。
フォーサも固まっていた。
目の前に広がるのは。
平地。
何もない。
建物も。
城も。
家も。
全て消えていた。
そこに国があったなんて。
誰が信じるだろうか。
ただ一つ。
中央に小さな家があった。
鉄でできた家。
簡素な家。
それだけだった。
静寂。
レイが拳を握る。
震えていた。
怒り。
悲しみ。
不安。
色々な感情が混ざる。
そして。
叫んだ。
「カイ兄!!」
声が響く。
数秒後。
鉄壁の家が開く。
ギィ。
中から一人の男が現れた。
長身。
鋭い目。
黄色い髪。
静かな威圧感。
能力ランキング第7位。
カイ。
レイの兄。
カイが目を細める。
「レイか……?」
静かな声。
再会だった。
十二年ぶりの。
兄妹の再会。
だが。
感動はなかった。
嬉しさも。
ほとんどない。
レイの胸にあるのは。
複雑な感情だけだった。
静寂。
何を言えばいいのか。
分からない。
言葉が出ない。
その時。
小さな手が触れた。
レイが振り向く。
フォーサだった。
フォーサが頷く。
優しく。
強く。
マッドも頷く。
レイは深く息を吸った。
そして。
意を決する。
「カイ兄」
声が震える。
「なんでノーランクを名乗るの?」
カイは黙っていた。
レイの瞳から涙が溢れる。
止まらない。
「なんでお父さんとお母さんの葬儀に来なかったの?」
声が震える。
苦しい。
でも止まれない。
「なんで私の前から消えたの?」
涙が落ちる。
ぽたぽたと。
地面に落ちる。
今まで。
ずっと聞きたかったこと。
ずっと抱えていたこと。
全て。
ぶつけた。
静寂。
カイは黙っていた。
そして。
ゆっくり口を開く。
「お前に」
「話す時が来たか……」
そう言って。
カイは全てを話し始めた。
◇
静かに。
淡々と。
感情をほとんど見せずに。
カイは語った。
母が。
自分を愛していなかったこと。
母に売られたこと。
八歳で兵士になったこと。
十歳で流刑島に送られたこと。
十五歳でブラッドに拾われたこと。
父が奴隷商人だったこと。
ブラッドを利用して。
両親を殺したこと。
そして。
レイを覚醒させたこと。
さらに。
ノーランクを乗っ取った理由。
レイを守るためだったこと。
話が終わる。
静寂。
誰も言葉を発せない。
「そんな……」
レイが呟く。
頭が真っ白だった。
フォーサも。
マッドも。
戸惑っていた。
カイの人生。
あまりにも理不尽だった。
奪われ続けた人生。
救いのない人生。
その中で。
唯一の光。
それが。
レイだった。
レイを守るためだけに。
全てを犠牲にしていた。
レイの思考が混乱する。
母。
優しかった。
いつも笑っていた。
父。
家にいる時間は少なかった。
でも優しかった。
温かかった。
家族だった。
でも。
それは全部。
偽りだったのか。
いや。
違う。
偽りというより。
身勝手。
両親もまた。
虐げる側だった。
レイが殺すべき相手だった。
呼吸が苦しくなる。
頭が痛い。
「うぐぅ……」
レイが頭を抱える。
その場に崩れ落ちた。
フォーサが慌てて支える。
「レイ!」
寄り添う。
マッドも言葉が出ない。
カイが静かに言った。
「今のが」
「嘘偽りない全てだ」
そして。
最後に。
カイが言う。
「レイ」
「もういいんだ」
静寂。
「あとは」
「お兄ちゃんに任せろ」
その時だった。
マッドが顔を上げる。
遠く。
人影。
四つ。
誰かがこちらへ向かってきていた。
レイ達が振り向く。
能力ランキング第8位。
ノクリア。
その隣には。
三人の仲間。
ゆっくりと。
だが確実に近づいてくる。
空気が張り詰める。
レイはカイを見た。
兄。
目の前にいる。
理不尽を受け続けた同情すべき男。
話は聞いた。
理解もした。
だが。
それでも。
胸に違和感が残る。
何かがおかしい。
カイが。
良い人には見えなかった。
話を聞いても。
腑に落ちなかった。




