第142話 光速の世界
レイは俯いていた。
何も言えない。
ドルガンの言葉が。
胸に刺さっていた。
監獄。
モルド。
アン。
シルヴィア。
全てが頭を巡る。
自分は正しかったのか。
分からない。
そんなレイに。
ドルガンは容赦しなかった。
「レイ」
「お前も結局」
「身勝手だ」
静寂。
その言葉に。
マッドが立ち上がった。
怒りで震えている。
「さっきから聞いてれば!!」
叫ぶ。
拳を握り締める。
「あなたは!!」
ドルガンを睨む。
能力ランキング第2位。
世界を統べる怪物。
だが。
マッドは怯まなかった。
「あなたはただ!!」
「自分の欲を正当化してるだけじゃないですか!!」
言い切った。
静寂。
誰も息をしない。
だが。
ドルガンは淡々と言った。
「そうだ」
マッドが固まる。
予想外だった。
ドルガンは続ける。
「その通りだ」
静かな声。
「全員、自分の欲望で動いている」
「だから」
少し笑う。
「こんなくだらない世の中なんだろ?」
重い言葉だった。
誰も反論できない。
ドルガンが指を向ける。
クロエへ。
「ディバイドもそうだ」
クロエの目が細くなる。
「ランキング者を殺している」
「だが」
「お前達にはお前達の成し遂げたいことがある」
クロエは何も言わない。
否定できない。
ドルガンが全員を見る。
「人は皆」
「自分の欲に忠実だ」
静かな声。
「それでいい」
「それが人間だ」
そして。
ドルガンは言い放った。
「だから俺は」
「誰を否定する権利もない」
一拍。
「だが」
目が鋭くなる。
「お前達も」
「俺を否定する権利などない」
静寂。
暴論だった。
あまりにも。
だが。
誰も反論できなかった。
ドルガンの言葉には。
圧倒的な現実があった。
◇
能力ランキング第7位。
カイの国。
その跡地。
崩壊した城。
砕けた大地。
何も残っていない。
その中心に。
一人の男が立っていた。
カイ。
静かに。
ただ立っている。
能力ランキング第8位。
ノクリアの国を潰した。
あいつなら。
きっと来る。
カイは空を見る。
超遠距離攻撃。
それが自分の強み。
だが。
ノクリアにはきかない。
速すぎる。
遠距離では当たらない。
なら。
誘い出すしかない。
近距離で。
隙を作る。
その一瞬で。
潰す。
カイは拳を握る。
強く。
「レイ」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
「あとは俺に任せろ」
静寂。
カイの目は。
覚悟に満ちていた。
◇
再び大広間。
レイ達は黙っていた。
誰も口を開けない。
空気が重い。
その時だった。
クロエが口を開く。
冷静な声。
「あなたのやりたいことは分かったわ」
ドルガンを見る。
「でも」
「正直」
レイを見る。
「レイが役に立つとは思えない」
静寂。
その通りだった。
レイの光線。
威力。
速さ。
どちらも異常。
だが。
ドルガンの強さ。
レギウスの得体の知れなさ。
その戦いに。
レイが割って入れるとは思えない。
だが。
ドルガンは即答した。
「いや」
短い一言。
そして断言する。
「レイしかいない」
全員が驚く。
クロエも目を見開く。
ドルガンが続ける。
「光線」
「いや」
レイを見る。
「光の速さが大事だ」
静寂。
レイが首を傾げる。
「光の速さ……?」
マッドもフォーサも分からない。
ドルガンが頷く。
そして。
初めて語った。
「能力ランキング第1位」
「レギウスの能力は」
全員が息を呑む。
「『居合空間』」
静寂。
レイ達は首を傾げる。
思ったより地味。
そう感じた。
だが。
ドルガンは続ける。
低く。
静かに。
「半径一キロ以内の物体を」
「光速で斬り続ける」
空気が凍る。
誰も動けない。
そして。
最後の言葉。
「塵になるまでな」
静寂。
レイが固まる。
マッドも。
フォーサも。
理解が追いつかない。
クロエが絞り出す。
「……は?」
声が震えていた。
先程のディオンへの攻撃。
あの一瞬で。
服を光速に斬り続けたというのか。
その時。
クロエがハッとする。
「なら」
ドルガンを見る。
「アス姉に頼めばいい」
全員がクロエを見る。
クロエが続ける。
「姉なら」
「能力を無効化できる」
そう。
能力ランキング第4位。
アストラ。
能力『能力無効』
ディオンが驚いた顔をする。
「アス姉って……」
クロエを見る。
「クロエ」
「アストラの妹なのか?」
クロエが頷く。
静寂。
その事実にも驚きだった。
だが。
ドルガンは首を横に振る。
「無理だ」
クロエが目を見開く。
「どうして?」
ドルガンは残念そうに答えた。
「あいつの能力を無効化しても」
静かな声。
「奴はそもそも」
「光速で物を斬る」
空気が止まる。
ドルガンの声だけが響く。
「居合空間は」
「オマケに過ぎない」
誰も言葉を失った。
レイの手が震える。
マッドの顔が青ざめる。
フォーサは怯えていた。
ディオンですら無言だった。
最強の無能力者でさえ。
レギウスとの。
絶対的な差を理解した。
レイが震える声で言う。
「そんな……」
息が詰まる。
ドルガンがレイを見る。
真っ直ぐに。
「レイ」
低い声。
「お前しか対抗できない」
レイの瞳が揺れる。
ドルガンは続ける。
「この世で最も速い光速には」
静寂。
「光速しか敵わない」
レイが息を呑む。
自分の光。
それだけが。
唯一。
レギウスに届く可能性。
光速の世界。
それは。
人の領域ではない。
異次元の世界。




