第141話 正義の代償
レギウスが去った後。
静寂だった。
誰も喋らない。
空気が重い。
あまりにも。
先程まで起きていたことが。
現実とは思えなかった。
能力ランキング第1位。
レギウス。
ただのスイカ好きのおじさん。
だが。
誰よりも異常だった。
ドルガンが口を開く。
低い声。
「皆、色々言いたいことはあるだろうが……」
一呼吸。
「話を戻そう」
そう言って。
レイを見る。
真っ直ぐに。
「光線の女」
重い声。
「お前に頼みがある」
全員がレイを見る。
レイは少しだけ黙った。
そして。
言った。
「レイって呼んで」
静寂。
クロエが目を見開く。
マッドも固まる。
フォーサも驚いた。
さっきまで。
圧倒されていた少女とは思えない。
だが。
レイの中で何かが変わっていた。
ドルガンにも兄がいた。
ドルガンも。
人間だった。
そう思えたから。
ドルガンが少し黙る。
わずかに目を細める。
そして。
「……分かった」
短く答えた。
「レイ」
「頼みがある」
ドルガンが言った。
「俺の兄」
「レギウスを」
「殺すのを手伝え」
全員が固まった。
言葉を失う。
レイの目が見開く。
ドルガンの目的。
それは。
兄を殺すこと。
能力ランキング第1位。
レギウスを。
殺すこと。
レイの心が揺れる。
兄を殺す。
理解できない。
だが。
奇妙だった。
その言葉が。
何故か。
自分の進む道と重なる気がした。
◇
別の場所。
暗い部屋。
ノクリアは静かに座っていた。
その前に。
二人の男が立つ。
能力ランキング第75位。
ダッシュ。
能力ランキング第71位。
テオ。
グリッチのメンバーの名前と能力を暴いた二人。
ダッシュが頭を下げる。
表情は複雑だった。
「なんと言っていいのか……」
苦い顔。
ノクリアが言う。
「すまんな」
「お前たちにまで来てもらうとは」
テオがすぐに否定する。
「そんなこと言うな!」
拳を握る。
怒りが見える。
「第7位のやったことは許されねぇ」
「絶対に……」
殺意。
フウが前へ出る。
静かに。
だが。
目は鋭い。
「この四人で」
全員を見る。
「第7位を殺しましょう」
静寂。
そして。
全員が頷いた。
◇
レイがドルガンを見る。
納得できなかった。
「なんで」
拳を握る。
「なんで兄を殺したいの?」
真っ直ぐ聞いた。
「悪い人には見えないけど」
ドルガンは静かだった。
感情が読めない。
そして。
答える。
「奴が生きている限り」
「俺は一番になれない」
静寂。
レイの顔が怒りで歪む。
「なにそれ!?」
立ち上がる。
「自分が一番になりたいから兄を殺す?」
「そんな身勝手な理由があっていいわけ!?」
当然の反論。
だが。
ドルガンは動じない。
冷たい目。
そして。
言った。
「ならば」
「お前のノーランクはどうなんだ?」
レイが固まる。
ドルガンは続ける。
「お前たちは何をしている?」
レイが反論する。
強く。
「私達は虐げられた者の味方をしてるの!!」
迷いなく言った。
それが自分達だった。
それが正義だった。
だが。
ドルガンの声は冷たい。
「モルドを」
一呼吸。
「なぜ殺そうとした?」
レイの表情が変わる。
モルド。
監獄の支配者。
レイが叫ぶ。
「彼は女も囚人も弄んだ!!」
怒りが蘇る。
「それは許されないこと!!」
ドルガンが言う。
「奴は監獄を守っていた」
レイが固まる。
ドルガンは続ける。
「虐げられた者の前で」
「虐げた者を殺した」
静寂。
レイの呼吸が止まる。
ドルガンの声だけが響く。
「女どももそうだ」
「売られた者」
「捨てられた者達だ」
「彼女らに居場所を与えた」
レイの脳裏に浮かぶ。
アン。
シルヴィア。
レイが叫ぶ。
「違う!!」
涙目で。
「彼女たちは外にいればもっと自由に暮らしてた!!」
そうだ。
あんな場所にいなければ。
もっと幸せだった。
そう信じていた。
だが。
ドルガンの声は変わらない。
冷たいまま。
「お前がモルドを消したせいで」
一拍。
「監獄の全員死んだぞ」
レイが固まる。
時間が止まる。
「え……」
声が漏れる。
理解できない。
頭が追いつかない。
「だって……」
震える声。
「鎮圧されたって……」
ドルガンが言う。
「そうだ」
静かに。
「鎮圧された」
「全員殺されてな」
レイの瞳が揺れる。
あの日。
自分は囚人を解放した。
モルドを穴に落とした。
そして。
その後。
鎮圧。
その意味。
今。
理解した。
レイの身体が震える。
手が冷たい。
息ができない。
思い出す。
最後の会話。
シルヴィア。
「また紅茶を飲みましょ」
レイの瞳から涙が落ちた。




