第140話 第1位との対面
大広間。
奇妙な光景だった。
中央。
対面側に座るのは。
ドルガン。
その後ろには。
ディオン。
スライム。
二人が立っている。
そして。
こちら側。
中央にレイ。
左にマッドとフォーサ。
右にクロエ。
そして。
おじさん。
ドルガンの兄。
そう聞いた。
だが。
誰も信じられなかった。
まるで対照的な二人。
静寂。
誰も喋らない。
空気が重い。
あのディオンですら。
明らかに動揺していた。
兵士が入ってくる。
皿を持っていた。
切られたスイカ。
丁寧に並べられている。
兵士が無言で机に置く。
おじさんが笑顔になる。
「ありがとう!」
明るい声。
だが。
兵士は露骨に睨んだ。
返事もしない。
そのまま去っていく。
また静寂。
おじさんがスイカを見る。
嬉しそうだった。
そして。
口を開く。
「みんなで食べよう!」
満面の笑み。
「おいしいぞ」
そう言って。
一人で食べ始めた。
シャク。
静寂の中に。
スイカをかじる音だけが響く。
誰も動かない。
当然だった。
こんな空気で。
食べられるわけがない。
だが。
「おいしいですね!」
明るい声。
全員がそちらを見る。
マッドだった。
普通に食べていた。
レイが固まる。
クロエが固まる。
ディオンも固まる。
たまにこの少年が。
とんでもない大物に見える。
おじさんが嬉しそうに笑う。
「そうだろ?」
スイカを持ち上げる。
「これはうちの畑で作ってるんだ」
どこか誇らしげ。
なんだこの会話は。
つい数日前まで。
戦争をしていたとは思えない。
マッドが首を傾げる。
そして。
聞いた。
「おじさんは何者なんですか?」
静寂。
全員が目を見開く。
マッドの空気の読めなさに。
おじさんは笑った。
気にした様子もない。
「俺か?」
「俺はドルガンの兄」
軽い口調。
そして。
「レギウスって言うんだ」
その瞬間。
ドサッ。
ディオンが後ろに転んだ。
全員が振り向く。
「な……」
顔面蒼白。
ディオンが震える。
「レギウスだと……?」
腰が抜けていた。
あのディオンが。
完全に。
クロエとフォーサも固まる。
レイの背中に冷たい汗が流れる。
マッドが首を傾げる。
「レギウスさんは強いんですか?」
スイカを食べながら聞いた。
シャク。
レギウスは少し考える。
「強いかは分からないが」
のんびり言う。
「能力ランキング第1位だ」
ぼと。
マッドの手からスイカが落ちた。
静寂。
誰も動けない。
は?
頭が追いつかない。
レイも固まる。
今。
なんて言った。
ドルガンが深くため息をつく。
「そいつは俺の兄貴」
重い声。
「能力ランキング第1位」
「レギウスだ」
空気が凍った。
誰も何も言えない。
信じられない。
目の前にいるのは。
どこにでもいそうなおじさん。
白いTシャツ。
ジーパン。
スイカを食べている。
そんな男が。
世界最強。
能力ランキング第1位。
ありえなかった。
レイはレギウスを見る。
何も感じない。
圧もない。
殺気もない。
なのに。
その何もなさが。
怖かった。
◇
しばらくして。
全員が少しだけ落ち着いた。
レギウスが立ち上がる。
「じゃあ」
「スイカを食べたからそろそろ帰るよ」
それだけ言う。
本当に。
スイカを食べに来ただけだった。
「あー、そういえば」
思い出したようにレギウスが手配書を出す。
「こいつらは殺しといたよ」
「能力ランキング54位も仲間だったから殺した」
は……?
全員が驚く。
レギウスが指さしたのは。
偽ディバイドだった。
更に。
「あと、さっき城の表にいた女も」
それは……
能力ランキング16位
ヴェルナのことだった。
そして。
そのまま歩き出す。
だが。
一人立ちはだかった。
ディオン。
真っ直ぐ前を見る。
真剣な目。
「第1位レギウス」
低い声。
「一度戦ってみたい」
静寂。
空気が張り詰める。
誰もが息を止めた。
ディオンはヴェルナと死闘を繰り広げた。
その女がいともたやすく殺された。
だから試したかった。
だが。
次の瞬間。
さらっ。
音がした。
ディオンの上着の正面が崩れる。
塵。
塵になった。
上半身が露わになる。
「は……?」
ディオンが固まる。
唖然とする。
誰も理解できない。
何が起きた。
レギウスは笑っていた。
「やめよう」
穏やかな声。
「スイカが悪くなるぞ」
そう言って。
ディオンの横を通り過ぎる。
ディオンは動けない。
いや。
動かなかった。
本能で理解した。
今。
殺されていてもおかしくなかった。
レギウスが扉を開ける。
その時。
ドルガンが口を開いた。
「兄貴」
レギウスが止まる。
背中を向けたまま。
ドルガンの目が鋭くなる。
殺意。
憎しみ。
複雑な感情。
全てが混ざっていた。
そして。
言った。
「必ず殺す」
静寂。
レギウスは一瞬だけ止まった。
笑顔が消える。
そして。
悲しい顔をして言う。
「そうか」
それだけだった。
レギウスは振り向かない。
そのまま去っていった。
静かに。
何事もなかったかのように。




