第139話 最強の兄弟
医療室。
静かだった。
レイがゆっくり目を開ける。
白い天井。
薬の匂い。
「ここは……」
かすれた声。
身体が重い。
隣を見る。
フォーサ。
マッド。
二人とも眠っていた。
その瞬間だった。
記憶が蘇る。
ミント。
最後の笑顔。
最後の言葉。
死。
「あ……」
レイの目から涙が溢れる。
止まらない。
「うぅ……」
声が漏れる。
ミント。
第二の母。
その人が。
死んだ。
しかも。
自分の判断で。
自分の選択で。
胸が痛い。
苦しい。
呼吸が乱れる。
その時だった。
ゾクリ。
寒気。
全身が凍るような感覚。
強烈だった。
何かが近づいてくる。
レイの身体が硬直する。
そして。
医療室の扉が開いた。
ギィ。
そこに立っていた。
巨大な影。
「お前が光線の女か?」
低い声。
レイが固まる。
大男だった。
身長三メートル。
体重五百キロ。
規格外。
筋肉の塊。
存在そのものが圧力だった。
レイは息を呑む。
言葉が出ない。
男が眉をひそめる。
「なんだ?」
レイを見る。
「まだ喋れないのか?」
その時だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴。
レイが振り向く。
マッドだった。
飛び起きていた。
顔面蒼白。
「化け物だぁぁぁぁ!!」
大男を指さして震えている。
男の額に青筋が浮く。
その時。
バタバタと足音。
「殺されるよぉぉぉぉ!!」
スライムが飛び込んできた。
レイとマッドの前に立つ。
慌てながら叫ぶ。
「こちらの方はぁぁぁ!!」
息を吸う。
そして。
「我らが王!!」
「能力ランキング第2位!!」
「ドルガン様だよぉぉぉ!!」
静寂。
レイとマッドが固まる。
第2位。
ドルガン。
レイの顔が青ざめる。
あのクロノより上。
ドルガンが鼻で笑う。
「騒がしいな」
二人を見る。
「頭が覚めたら大広間へ来い」
それだけ言った。
そのまま去っていく。
スライムも後を追った。
医療室に静寂が戻った。
レイとマッドが顔を見合わせる。
何も言えない。
しばらくして。
フォーサがゆっくり目を覚ました。
三人はもう一度泣いた。
そして。
一呼吸おいて。
フォーサに事情を話す。
三人は大広間へ向かうことにした。
◇
大広間へ向かう。
重い足取り。
ミントの死。
悲しみは消えない。
だが。
進むしかない。
三人は扉の前に立つ。
兵士が扉を開けた。
ギィ。
広い空間。
そこには。
ドルガン。
ディオン。
スライム。
そして。
クロエがいた。
クロエがレイ達を見る。
少し安心した顔。
ドルガンが言う。
「座れ」
低い声。
逆らえない。
レイ達とクロエが座る。
静寂。
ドルガンが口を開く。
「まずは」
一呼吸。
「戦争ご苦労」
レイ達が違和感を覚える。
その言葉。
労いのはず。
だが。
冷たい。
感情がない。
まるで他人事。
この国は襲われた。
多くの兵士が死んだ。
その原因の一端は。
自分達を匿ったこと。
なのに。
ドルガンは何も感じていない。
レイの拳が震える。
クロエは強く拳を握っていた。
怒りを押し殺している。
ドルガンが続ける。
「さて」
「それじゃあ早速だが……」
その時だった。
バン!!
扉が勢いよく開く。
兵士が入ってくる。
焦っていた。
「ドルガン様!」
ドルガンが睨む。
「なんだ?」
兵士が慌てて頭を下げる。
「ずっとドルガン様に会わせろという男がいまして!」
ドルガンの眉が動く。
兵士が続ける。
「何度も無理だと伝えました!」
「ですが……」
息を飲む。
「何日も滞在して」
「毎日訴えてきております!」
ドルガンの目が冷える。
「そんな奴は殺せ」
即答。
殺意すらない。
兵士が震える。
だが。
言った。
「ただ……」
兵士が続ける。
「彼はドルガン様の知り合いだと」
全員が怪訝な顔になる。
兵士がさらに言う。
「スイカを一緒に食べたいだけだと……」
静寂。
全員が首を傾げる。
スイカ?
なんだそれ。
意味が分からない。
近所のおじさんか。
その時だった。
ドルガンの表情が変わった。
初めてだった。
感情が動いた。
「手を出すな」
兵士が目を見開く。
ドルガンが立ち上がる。
「俺が出る」
そのまま歩き出す。
レイ達は顔を見合わせる。
気になる。
全員が立ち上がり。
後を追った。
◇
城の入口。
兵士が一人の男と口論していた。
「何度も言っているだろ!!」
兵士が怒鳴る。
「お前ごときが会える相手ではない!」
男は困ったように笑う。
「だから知り合いなんだって」
のんびりした声。
片手には。
スイカ。
「良いスイカが取れたんだよ」
「一緒に食べたいだけなんだ」
全く引かない。
レイ達が到着する。
男を見る。
普通だった。
あまりにも普通。
青いジーパン。
白いTシャツ。
四十代くらい。
どこにでもいそうなおじさん。
全然強そうじゃない。
レイが首を傾げる。
この人が。
ドルガンの知り合い?
もっと怪物みたいな人を想像していた。
その時。
ドルガンが前へ出る。
兵士が慌てて道を開ける。
ドルガンが男を見る。
空気が変わる。
そして。
口を開いた。
「なんの用だ」
静かな声。
次の瞬間。
全員が凍り付いた。
「兄貴」
静寂。
レイ達の目が見開く。
兄貴?
ドルガンの?
男が振り向く。
にこっと笑う。
気楽な顔。
「よう、ドルガン」
軽い声だった。
そして。
持っていたスイカを軽く上げる。
「スイカ一緒に食べないか?」




