第138話 非安全地帯
とある島。
文明から離れた孤島。
波の音だけが響く。
静かだった。
その島に。
一人の大男がいた。
能力ランキング第31位。
クロム。
能力『鋼化』
身体そのものを鋼へ変える能力。
筋肉。
骨。
皮膚。
全てが鋼になる。
圧倒的防御力。
圧倒的耐久力。
彼は強かった。
だが。
世界には興味がなかった。
ランキング。
戦争。
国家。
何も興味がない。
だから。
この島で一人暮らしていた。
釣りをして。
食べて。
寝る。
それだけの日々。
クロムは静かに釣り糸を垂らしていた。
「今日は大物を捕まえたいな」
のんびり呟く。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
異音。
クロムの目が細まる。
すぐ横。
何もなかった場所に。
巨大な鉄の壁が現れた。
縦に長い。
分厚い鉄壁。
そして。
鉄壁が迫ってきた。
一直線。
クロムに直撃する軌道。
だが。
クロムは動じない。
ガン!!
鈍い音。
鉄壁が大きくへこんだ。
クロムの身体が変化していた。
鋼。
鉄より硬い。
鋼。
故に。
能力ランキング第7位。
カイ。
クロムは危険視していなかった。
クロムが立ち上がる。
静かに。
「来たか」
周囲を見る。
そして。
固まる。
そこには。
鉄。
鉄。
鉄。
何千枚もの鉄壁が。
埋め尽くしていた。
前。
後ろ。
左右。
上空。
逃げ場がない。
クロムは笑った。
島にいても情報は来ていた。
ノーランクの城災。
血が熱くなる。
「こい!!」
叫ぶ。
その瞬間。
何千枚もの鉄壁が動いた。
一斉に。
クロムへ迫る。
圧倒的物量。
圧倒的質量。
島全体が震えた。
◇
静寂。
波の音だけが響く。
島は変わり果てていた。
木々はなぎ倒され。
岩は砕け。
地面は深くえぐれている。
まるで。
巨大な怪物同士が戦った跡。
その中心。
一人の男が倒れていた。
能力ランキング第31位。
クロム。
死んでいた。
全身が潰れている。
鋼の肉体が。
無惨に。
カイの鉄壁は。
確かにクロムに割られた。
一枚でも。
十枚でも。
百枚でも。
クロムは耐えた。
だが。
何千枚。
話は別だった。
鉄壁。
鉄壁。
鉄壁。
終わらない鉄の奔流。
ただの物量。
ただの質量。
ただそれだけで。
クロムは圧死した。
能力ランキング第7位。
カイ。
その超遠距離攻撃は。
世界から。
安全な場所を。
消し去っていた。
◇
アストラは歩いていた。
一人で。
気ままに。
まるで散歩するように。
その足元。
死体が転がっている。
能力ランキング第32位。
イヴ。
死亡。
イヴの能力は。
『魔力吸収』
相手の能力エネルギーを吸収する力。
対能力者において。
極めて強力な能力。
普通なら。
かなりの強者だった。
だが。
相手が悪かった。
アストラ。
能力ランキング第4位。
能力『能力無効』
彼女にとって。
イヴは何でもない相手だった。
「うーん……」
少し困ったような顔。
「さすがに死にすぎでしょ☆」
軽い声。
手元には一枚の紙。
能力ランキング表。
アストラが眺める。
死。
死。
死。
大量のバツ印。
能力者達が次々に消えていた。
同時に。
偽ディバイド。
本物のディバイド。
どちらも壊滅状態。
気付けば。
残っているのは。
姉妹二人だけだった。
アストラの目が細くなる。
クロエ。
妹。
アストラが笑う。
優しく。
静かに。
「絶対に会おうね☆」
「クロエ」
その顔は。
ディバイドのリーダーではなかった。
能力ランキング第4位でもなかった。
ただ。
一人の姉だった。




