第136話 第2位の帰還
戦争は終わった。
長かった戦い。
あまりにも多くのものを失った。
ディオンは静かに歩く。
向かう先は。
レイ達の元だった。
そこへ。
クロエ。
スライムも合流する。
三人が見たもの。
それは。
その場で眠るレイ達だった。
泣き疲れて。
そのまま眠っていた。
涙の跡がまだ残っている。
クロエが呆れたように言う。
「こんなところで寝るなんて」
周囲を見る。
死体。
血。
瓦礫。
まだ戦場の匂いが残る。
「危険すぎるわ」
ディオンが静かに答える。
「仲間が死んだんだ」
「仕方ない」
クロエは黙る。
何も言えなかった。
スライムが前に出る。
「僕がぁぁぁ」
優しく笑う。
「連れていくねぇぇぇ」
粘液を柔らかく変える。
三人を傷つけないように包み込んだ。
まるでベッドのように。
そして。
ゆっくり持ち上げる。
「医療室へぇぇぇ」
スライムが歩き出す。
その場には。
ディオンとクロエが残った。
少しの沈黙。
クロエが口を開く。
「ガイアとボルトに関しては」
「残念だったわね」
そして。
ゆっくり頭を下げた。
ディオンの目が少し開く。
クロエが頭を下げる。
想像していなかった。
「私のせいだわ」
「ごめんなさい」
静寂。
ディオンが答える。
「いや」
短く。
そして。
前を見る。
「俺が弱かった」
「それだけだ」
クロエが顔を上げる。
ディオンを見る。
その横顔。
悲しみを抱えながら。
全て背負って立っている。
その姿に。
クロエの胸が少し高鳴る。
鼓動が速くなる。
その時だった。
低い声が響く。
「随分とひどいありさまだな」
「ディオン」
空気が変わる。
ディオンが振り向く。
そこにいた。
大男。
圧倒的な存在感。
能力ランキング第2位。
ドルガン。
ディオンが即座に膝をつく。
頭を下げる。
「ドルガン様」
「おかえりなさいませ」
クロエが固まる。
その光景。
理解できない。
そして。
怒りが湧いた。
拳を握る。
「ひどいありさま?」
声が震える。
怒りで。
「ひどいありさまって?」
ディオンが顔を上げる。
嫌な予感。
「よせ」
止める。
だが。
クロエが叫ぶ。
「あなたが早く来れば!!」
怒号。
「こんなことにはならなかったでしょ!?」
ディオンが立ち上がる。
「やめろ!!」
クロエは止まらない。
「国の兵士が!!」
「幹部が!!」
「たくさん死んで!!」
「何も感じないの!?」
ディオンが腕を掴む。
止めようとする。
その時。
ドルガンがクロエを見た。
その瞬間。
クロエの身体が止まる。
息ができない。
心臓が凍る。
目の前にいるのは人間ではない。
そう感じた。
地獄。
奈落。
死。
全てを凝縮したような圧。
ドルガンが冷たく言う。
「俺のせいにするな」
一切の感情がない声。
「あいつらが弱いだけだ」
静寂。
非情。
ただそれだけだった。
クロエの身体が震える。
怒り。
恐怖。
両方だった。
すると。
ドルガンが目を細めた。
「お前」
「クロエか」
名前を呼ばれた。
クロエが息を呑む。
ドルガンが淡々と言う。
「ディバイドなら……」
「殺しておくか」
まるで。
ついでのように。
その時。
ディオンが前へ出る。
クロエを庇うように。
「ドルガン様」
頭を下げる。
「彼女はディバイドですが」
拳を握る。
「ガイアが守れと言いました」
ドルガンは無表情。
そして。
一言。
「そんなものは理由にならんな」
切り捨てた。
ディオンの顔が曇る。
その時だった。
クロエが叫ぶ。
「やってみなさいよ!!!」
影が動く。
ドルガンの足元。
影から腕が伸びる。
黒い腕。
そして。
一本の棘へ変化。
一直線。
ドルガンの急所を狙う。
クロエの全力。
クロノにもダメージを与えた技。
だが。
カン。
乾いた音。
クロエの目が見開かれる。
刺さらない。
全く。
刺さらない。
まるで。
紙を壁に押しつけたような感覚。
「は……?」
クロエが固まる。
「なんなの……」
「その硬さは……」
ドルガンは動かない。
表情も変わらない。
ただ見下ろす。
「俺がお前ごとき」
「まともに相手にするとでも?」
その瞬間。
ドドドドドド。
重い音。
地面が揺れる。
何かが走ってくる。
巨大な影。
クロエが振り向く。
そこにいた。
巨大な騎士。
全身鎧。
漆黒。
そして。
首がない。
異様。
あまりにも異様。
神話の怪物。
デュラハン。
クロエの額から汗が流れる。
本能が叫ぶ。
逃げろ。
だが。
クロエは拳を握った。
震えながら。
それでも前を見る。
「やってや……」
言い切る前に。
剣が振るわれた。




