第133話 光線の暴走
ファルスは少しずつ前に進んでいた。
慎重だった。
あまりにも。
二人の少女が泣き崩れている。
レイ。
フォーサ。
戦場のど真ん中で。
膝をついて。
声を上げて。
泣いていた。
普通なら。
好機だった。
だが。
ファルスは急がない。
先程見た。
あの光線。
あれが脳裏から離れなかった。
ファルスは。
多くの強者を殺してきた。
故に。
あの光は。
本能が危険だと告げていた。
だから。
距離を測る。
自分の能力範囲。
相手の光線の範囲。
その境界線。
ギリギリ。
本当にギリギリの場所で。
立ち止まる。
そして。
手を向けた。
「悪いな」
構える。
静かな声だった。
◇
フォーサは泣いていた。
レイも。
涙が止まらない。
ミント。
優しかった。
いつも。
誰よりも。
怒ることも少なかった。
温かかった。
母親みたいだった。
本当に。
その人が死んだ。
目の前で。
何もできなかった。
レイは拳を握る。
見えない。
何も。
ミントの最期すら。
見られなかった。
だが。
ここで止まれない。
フォーサがいる。
まだ戦争は終わっていない。
まだ。
敵がいる。
その時だった。
小さな手。
レイの手を握る。
温かい。
震えている。
フォーサだった。
緑の光が溢れる。
能力『強制覚醒』
レイの身体を包む。
フォーサが震える声で言った。
「レイ……」
涙声だった。
嗚咽混じりだった。
それでも。
言った。
「全部壊して……」
レイは黙って頷く。
見えない。
何も見えない。
でも。
分かる。
敵がいる。
周囲に。
レイは両手を前へ向けた。
右手。
左手。
そして。
叫ぶ。
「うああああああああああああ!!!!」
光。
放たれる。
巨大な光。
一直線。
そして。
レイは両腕を振った。
全てを。
壊すために。
◇
ディオンの視界が戻る。
突然だった。
「解けたのか?」
違和感。
強烈な。
おかしい。
今。
能力を解く意味がない。
身体はまだ重い。
『鈍足化』は残っている。
近くにはヴェルナ。
異形もいる。
なのに。
ラギがいない。
ファルスもいない。
ディオンの顔色が変わる。
嫌な予感。
レイ達がこちらへ来ていることを。
ディオンは知らない。
だから。
気付くのが遅れた。
その時。
遠くから声。
悲鳴。
絶叫。
「ミントぉぉぉぉぉ!!!!」
フォーサだった。
ディオンが目を見開く。
そして。
光。
「あっ……」
気付く。
レイ。
「くそ!!」
ディオンが駆ける。
異形を蹴り飛ばす。
殴る。
吹き飛ばす。
だが。
邪魔。
数が多すぎる。
「どけぇぇぇぇ!!!!」
咆哮。
異形が吹き飛ぶ。
それでも。
間に合わない。
そして。
見えた。
強烈な光。
特訓で何度も見た。
レイの光。
だが、その時とは比較にならない。
巨大な光。
ディオンが苦笑する。
「これは……」
汗が流れる。
「避けないと死ぬな」
◇
ファルスは固まっていた。
ラギも。
理解できない。
少女の射程は知っている。
先程見た。
だから。
届かない場所から攻撃していた。
そのはずだった。
だが。
違う。
目の前の光。
明らかに。
届く。
あり得ない距離まで。
伸びている。
しかも。
無秩序。
予測不能。
滅茶苦茶に振り回される。
「なんだその光は……」
ファルスが呟く。
その瞬間。
光が迫る。
速い。
避けられない。
ラギが振り返る。
ファルスを見る。
恐怖に染まった顔。
「ファルス様……」
最後の言葉だった。
ズガァァァァァァァァァァン!!!!
光が通過する。
能力ランキング第34位。
ラギ。
死亡。
ファルスが歯を食いしばる。
逃げる。
避ける。
だが。
光が追い付く。
横薙ぎ。
一直線。
身体が切断される。
「くそ……」
能力ランキング第23位。
ファルス。
死亡。
レイはまだ光を放ち続けていた。
泣きながら。
叫びながら。
何も見えないまま。
全てを壊すように。
ただ。
両手を振り続けた。




