第128話 ボルト覚醒
ボルトの視界が消えた。
真っ黒。
何も見えない。
「くそ……」
ボルトが歯を食いしばる。
能力ランキング第34位。
ラギ。
能力『視界破壊』
話には聞いていた。
だが。
実際に受けると。
想像以上だった。
人間は視界に頼っている。
距離。
方向。
敵の位置。
全て。
だからこそ。
恐ろしい。
ブリザが笑う。
「やっと来たわね」
余裕の笑みだった。
ラギの能力は強い。
だが。
欠点もある。
発動まで五分。
その場から動けばやり直し。
戦場で五分。
致命的な長さだった。
だから。
ラギはずっと隠れていた。
異形の群れの中で。
息を潜めて。
機会を待っていた。
そして。
成功した。
その代償に見合う能力。
ボルトの目は。
今日は色を見ることがない。
「ここからは」
ブリザが鎖を構える。
「一方的よ」
鎖が走る。
一直線。
音もなく。
ボルトへ。
ボルトは動かない。
静かに。
目を閉じていた。
見えていないのに。
さらに目を閉じる。
そして。
鎖が届く。
ガシッ。
「な……!?」
ブリザが目を見開いた。
ボルトが鎖を掴んでいた。
正確に。
確実に。
鎖を。
ブリザの笑みが消える。
そして。
ボルトが凍る。
だが。
離さない。
ブリザが鎖を引く。
「くっ……!」
動かない。
全く。
びくともしない。
異常な握力。
異常な腕力。
その瞬間。
気付く。
隙を見せたのは。
ボルトではない。
自分だと。
ブリザは舞っていなかった。
これまでは舞うことで。
攻撃の出所を読ませなかった。
油断。
「ふしゅー」
ボルトが息を吐く。
静かに。
そして。
「捉えたぞ」
ブリザの背筋が冷える。
氷が割れる。
ボルトの腕が動く。
拳。
一直線。
ブリザへ。
見えていないはずだった。
だが。
確実に自分を狙っている。
ブリザの目が冷たくなる。
「……使うわ」
決断。
その瞬間だった。
ガチャガチャ
空間が鳴った。
何もない場所から。
無数の鎖が飛び出す。
前後左右。
上下。
逃げ場はない。
ボルトの身体を拘束する。
「……!?」
ボルトの動きが止まる。
鎖が巻き付く。
締め上げる。
そして。
凍る。
今までとは違う。
表面だけではない。
身体そのものを。
内部から。
凍らせる。
ボルトが歯を食いしばる。
熱を生み出す。
電磁。
全力。
だが。
間に合わない。
凍結が速い。
身体が白くなる。
指が動かない。
腕も。
脚も。
止まる。
ブリザが息を吐く。
肩で呼吸している。
限界だった。
この技は負担が大きい。
だから。
使いたくなかった。
だが。
ここしかなかった。
「はぁ……はぁ……」
ブリザが笑う。
「終わりよ」
勝利を確信する。
「私の勝ち」
その言葉を聞きながら。
ボルトは目を閉じた。
記憶が蘇る。
勝ったことなんて。
一度もなかった。
強くなりたかった。
最強になりたかった。
だから。
この国へ来た。
だが。
いた。
怪物が。
ディオン。
ガイア。
スライム。
全員。
おかしかった。
強すぎた。
皆は言った。
ボルトも同じだと。
並んでいると。
だが。
一度も思ったことはなかった。
自分は弱い。
ずっと。
そう思っていた。
能力なしでは一度も彼らに勝ったことなんてない。
それでも。
嬉しかった。
あの三人と。
同じ場所に立てていると思われることが。
だから。
こんなところで。
終われない。
ガイア。
お前が死んだなら。
俺がやる。
お前の分まで。
その時だった。
ボルトの脳裏に浮かぶ。
フォーサ。
能力『強制覚醒』
あの感覚。
身体の奥が開く感覚。
限界を超える感覚。
今はフォーサがいない。
「なら……」
氷の中で。
動かない拳を握る。
「自分でやる」
覚醒を。
自分で。
ブリザが背を向ける。
休もうとした。
その瞬間。
シュゥゥゥゥ……
音がした。
氷が溶ける音。
ブリザが振り返る。
「な……」
完全に凍ったはずだった。
完全に。
なのに。
溶けている。
氷が。
蒸発している。
ボルトの周囲から。
白い蒸気が立ち上る。
「ふしゅー」
ボルトが立っていた。
静かに言う。
「まだ終わらん」
ボルトの身体から。
熱が溢れる。
異常な熱量。
空気が揺らぐ。
地面が焦げる。
鎖が溶けた。
能力ランキング第39位。
ボルト。
その体温は。
灼熱になっていた。




