第117話 特訓
レイ達はそれぞれ分かれて特訓を開始した。
戦争まで残りわずか。
全員が強くならなければ。
その中で。
マッドは固まっていた。
目の前の男を見ながら。
「よろしくねぇぇぇ」
能力ランキング第60位。
能力『粘液』
スライム。
マッドは心の底から嫌そうな顔をした。
「なぜ僕はいつもこんな……」
スライムが笑う。
「あはははは」
「失礼だなぁぁぁぁ」
そして。
急に真顔になる。
「早速始めようかぁぁぁ」
マッドも表情を引き締める。
地面へ手をついた。
能力発動。
「『泥』!!」
地面が変化する。
スライムの足元が泥へ変わる。
さらに。
泥の腕が現れた。
足を掴む。
拘束。
スライムが感心したように言う。
「やるねぇ」
「足が動かないよぉぉぉ」
だが。
次の瞬間。
スライムの足がとれた。
「え……?」
マッドが固まる。
スライムの身体が液状化する。
全身がドロドロに溶ける。
そして。
地面を滑るように迫ってきた。
速い。
気付けば。
目の前。
スライムが人型へ戻る。
そして。
蹴り。
「がはっ!!」
腹に直撃した。
異常な威力。
マッドの身体が吹き飛ぶ。
地面を何度も転がる。
呼吸が止まりそうになる。
鍛えていなければ。
内臓が破裂していてもおかしくない威力だった。
スライムが言う。
「緊張感が足りないねぇぇぇ」
笑っている。
だが目は笑っていない。
「どうせ戦争ですぐ死ぬならぁぁぁ」
「今殺しちゃうよぉぉぉ」
マッドの背筋が凍る。
スライムは続けた。
「僕らはレイ以外」
「守る必要ないんだからぁぁぁぁ」
マッドは理解した。
こいつらは優しくない。
弱ければ捨てる。
死んでも構わないと思っている。
だから。
本気だ。
マッドは立ち上がる。
拳を握る。
「なら!!」
スライムを見る。
「本気でいきますよ!!」
その瞬間。
スライムの足元が崩れた。
「ん?」
巨大な穴。
スライムが落下する。
マッドは能力を発動していた。
戦う前から。
周囲の地面を泥へ変えていた。
そして。
モルドとの戦いで見せた応用。
落とし穴。
スライムが落ちた瞬間。
泥で蓋をする。
完全封鎖。
マッドは腹を押さえる。
「いてて……」
そして言った。
「あなたも緊張感が足りないのでは?」
静寂。
だが。
ボコボコボコ。
地面が盛り上がる。
「え?」
泥の中から。
何かが飛び出した。
「確かに、緊張感が足りなかったねぇぇぇ!!」
スライムだった。
全身泥まみれ。
だが無傷。
液状化したまま泥の中を移動していた。
マッドは頭を抱えた。
どうやら。
この特訓は。
地獄らしい。
◇
一方。
フォーサとミントは。
ボルトと特訓していた。
こちらはマッドほど激しくない。
だが。
内容はかなり特殊だった。
フォーサが能力を発動する。
能力『強制覚醒』
ボルトへ能力をかけ続ける。
そして。
ボルトがその力を制御する。
それの繰り返しだった。
「ふしゅー」
ボルトが腕を見る。
「すごいなその能力」
「力の制御が大変だ」
そして。
壁へ向かって拳を放つ。
ドゴォォォン!!
壁が大きく抉れた。
フォーサが固まる。
ミントも固まる。
能力ランキング第39位。
能力『電磁支配』
ボルト。
その実力は想像以上だった。
フォーサが呟く。
「この人本当に第39位?」
ミントも頷く。
第39位とは思えない。
むしろもっと上に見える。
その時。
ボルトがミントを指差した。
「ふしゅー」
「何故お前は何もしない?」
ミントが驚く。
「だって」
当然のように言う。
「回復する人がいないじゃない」
すると。
ボルトが首を傾げた。
「いるじゃないか」
静寂。
ミントが周囲を見る。
誰もいない。
ボルトが言う。
「フォーサが」
二人が固まる。
その発想はなかった。
いつも。
フォーサは能力をかける側。
支援する側だった。
ミントが能力を発動する。
能力『軽度治癒』
光がフォーサを包む。
フォーサが目を見開く。
「え?」
身体が軽い。
疲労が減っている。
能力維持が楽になる。
フォーサが再び能力を発動する。
普段より長い。
明らかに長い。
ミントも驚く。
「これ……」
フォーサも頷く。
二人は顔を見合わせた。
そして。
笑った。
その様子を見て。
ボルトも自然と笑みを浮かべる。
「ふしゅー」
少しだけ。
懐かしそうだった。




