第113話 勘の女王
数日後。
ディオンの執務室。
一人の兵士が慌てて駆け込んできた。
「報告します!!」
息を切らしながら叫ぶ。
ディオンが顔を上げる。
「どうした」
兵士が答える。
「能力ランキング第16位!!」
「ヴェルナ女王が面会を希望しています!!」
その瞬間。
ディオンの表情が曇った。
勘づいたな。
あの女。
ガイアが腕を組む。
「どうする?」
「今会うのはまずくねぇか?」
ボルトも黙っている。
スライムも笑っていない。
ディオンは椅子から立ち上がる。
そして答えた。
「ここで会わない方が疑われる」
全員が黙る。
ディオンは続けた。
「それに」
「俺は隠すつもりはない」
静かな声。
だが。
絶対の自信があった。
自分達を強者だと。
ガイアが笑う。
「そういうと思ったぜ」
ボルトがため息を吐く。
「ふしゅー」
スライムも肩をすくめる。
「面倒だなぁぁ」
そして。
四人は大広間へ向かった。
◇
大広間。
長い机。
その両端に。
二つの勢力が向かい合っていた。
能力ランキング第11位。
ディオン。
最強の無能力者。
対するは。
能力ランキング第16位。
ヴェルナ。
直感だけで女王へ上り詰めた怪物。
ディオンの後ろには。
第28位ガイア。
第39位ボルト。
第60位スライム。
ヴェルナの後ろには。
第12位フィオナ。
第18位マギア。
第41位メイズ。
空気が重い。
誰もが強者だった。
先に口を開いたのは。
ヴェルナだった。
微笑みながら言う。
「私の勘だと」
「ここにクロエがいると思ったんだけど?」
いきなりだった。
探りではない。
断定に近い。
ガイアの指が一瞬だけ動く。
ボルトが小声で言う。
「おい」
ガイアが小さく頷く。
少しでも反応するな。
そういう意味だった。
ディオンは微動だにしない。
そして言う。
「いたらなんだ?」
第18位マギアが立ち上がる。
「なんだじゃないでしょ!!」
机を叩く。
「あなた達の王が殺すと決めたんでしょ!?」
怒りを隠さない。
だが。
ディオンは平然としていた。
「そうだが」
腕を組む。
「不測の事態が多く起こってな」
「今は保留している」
マギアが激怒する。
「いい加減にしなさい!!」
「ディバイドは殺す!!」
「クロエを出せ!!」
殺気が広間を満たす。
だが。
ディオンは動かない。
「保留している」
それだけ言う。
マギアがさらに前へ出ようとする。
その瞬間。
ディオンが口を開いた。
「手を出すなら」
全員が止まる。
ディオンの目が鋭くなる。
「やるぞ」
空気が変わった。
誰も動けない。
圧。
それは最上位に近い圧だった。
順位が一つしか変わらない。
第12位フィオナですら。
言葉を失う。
沈黙。
長い沈黙。
その時だった。
ヴェルナが立ち上がる。
ゆっくりと歩く。
そして。
ガイアの目の前まで来た。
突然ガイアの目の前に指を向ける。
距離は数ミリ。
そして。
微笑みながら言った。
「ねぇ」
ガイアは動かない。
ヴェルナが続ける。
「もしかして」
少し首を傾げる。
「ノーランクもいる?」
ガイアは瞬きもしなかった。
「知らんな」
即答。
ヴェルナは数秒見つめる。
そして。
ふっと笑った。
「……まぁいいわ」
自分の席へ戻る。
そして。
足を組んだ。
「とにかく」
ディオンを見る。
「クロエは殺しなさい」
静かな声。
だが。
命令だった。
「もし殺さないなら」
全員が息を呑む。
ヴェルナは宣言する。
「十日後」
笑顔のまま。
「戦争をするわ」
ボルトの額に汗が流れる。
スライムが唾を飲み込む。
だが。
ディオンだけは変わらない。
「言葉が通じないのか?」
ヴェルナを見る。
「もう一度はっきり言うぞ」
「手を出すなら」
「殺す」
沈黙。
完全な決裂だった。
ヴェルナが立ち上がる。
フィオナ。
マギア。
メイズも続く。
出口へ向かう。
そして。
扉の前で。
ヴェルナが振り返った。
「あなた達」
「後悔するわよ」
そう言い残し。
去っていった。
重い扉が閉まる。
大広間には沈黙だけが残った。
十日。
戦争まで。
残された時間は。
あと十日だった。




