第105話 奴隷商人
カイが能力ランキング第7位になってから。
周囲の態度は一変した。
兵士。
貴族。
商人。
誰もが頭を下げる。
尊敬。
そして。
恐怖。
その二つだった。
カイ自身は気にしていない。
だが。
一人だけ。
気にしている男がいた。
ブラッドだった。
能力ランキング第22位。
この国の守護者。
かつてはそう呼ばれていた。
だが今は違う。
誰もが知っている。
この国を支えているのは。
ブラッドではない。
カイだ。
能力ランキング第7位。
最上位。
もはや格が違う。
ブラッドは笑う。
普段通り振る舞う。
だが。
心の中では。
ずっと苛立っていた。
◇
三年後。
カイは二十歳になっていた。
その頃。
ある事件が起きる。
ブラッドが大量の女を買った。
そして。
全員を殺した。
ただの憂さ晴らし。
それだけだった。
カイは報告書を閉じる。
静かに考える。
もう殺すか。
今ならいつでも殺せる。
能力も。
順位も。
全て上。
だが。
簡単には決断できなかった。
十年間。
共に過ごした。
強くなったのも。
最上位へ届いたのも。
あいつがいたからだ。
情がないわけではない。
カイは窓の外を見る。
そして思った。
そもそも。
ブラッドはどこから女を手に入れた?
そこが気になった。
カイは調べ始める。
◇
調査は簡単だった。
奴隷商人。
奴隷市場。
裏取引。
次々に情報が出てくる。
そして。
カイは知った。
女だけではない。
子供も売られている。
能力者も売られている。
特に能力者は特別だった。
価値が高い。
だから狙われる。
能力者狩り。
そんな連中まで存在した。
カイの表情は変わらない。
だが。
怒りは増していた。
理不尽。
また理不尽。
強い奴が弱い奴を売る。
弱い奴を奪う。
許せなかった。
カイは決める。
全部潰す。
根こそぎ。
残らず。
◇
数日後。
カイは商人を追跡していた。
遠くから監視する。
取引現場。
檻。
鎖。
怯える女。
泣く子供。
全て見た。
十分だった。
カイは能力を発動する。
ゴゴゴゴゴ。
巨大な鉄壁が現れる。
前。
後ろ。
右。
左。
商人を完全に囲む。
「なっ!?」
「なんだこれ!?」
商人が騒ぐ。
逃げられない。
鉄壁の牢獄。
カイは外から声をかける。
「お前が」
静かな声。
「女や子供」
「能力者を売っている商人だな?」
商人は警戒する。
だが。
観念したように答えた。
「……そうだ」
そして奴隷商人が聞く。
「お前は誰だ?」
カイは答える。
絶望を与えるために。
「死ぬ前に教えてやる」
商人が息を呑む。
カイは続ける。
「俺はカイ」
「能力ランキング第7位だ」
静寂。
普通なら。
そこで終わる。
絶望する。
命乞いする。
だが。
違った。
商人の目が見開く。
震え始める。
そして。
信じられない言葉を口にした。
「……カイ?」
カイが眉をひそめる。
なんだその反応は。
商人はさらに言う。
「カイなのか?」
震える声。
混乱している。
カイの胸に。
嫌な予感が走る。
そして。
商人が叫んだ。
「私だ!!」
鉄壁の中で。
必死に叫ぶ。
「父だ!!」
その瞬間。
カイの思考が止まった。
父。
聞き間違いだと思った。
だが。
確かに見覚えがあった。
もう十二年前の記憶だが。
幼い頃。
ほとんど家に帰らなかった男。
商人だった男。
母を拾った男。
レイの父。
そして。
自分の父。
カイの瞳が揺れる。
「……父さん?」
言葉を失った。




