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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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『戦術授業』

昼休みが終わり、午後の授業開始を

告げるチャイムが鳴る。


 生徒たちはそれぞれ席へ戻っていく。


 だが教室の空気は、朝とは少し違っていた。


 ちらり。


 ちらり。


 視線を感じる。


「……見られてるな」


 俺が小さく呟くと、隣の九条が苦笑した。


「そりゃ見るだろ。オーガ戦の話、かなり広がってるぞ」


「面倒だな……」


「その原因の一部、お前だからな?」


 納得いかない。


 俺は普通に後方支援していただけだ。


 すると前の席から紅音が振り返る。


「お兄ちゃん、もうちょっと自覚持った方がいいと思う」


「嫌だ」


「即答だね……」


 その時。


 ガラリ、と教室の扉が開く。


 入ってきたのは篠崎教官だった。


 教室の空気が一気に引き締まる。


「着席」


 低い声が響く。


 全員がすぐに席へ着いた。


「今日の午後授業は戦術講義だ」


 篠崎教官が端末を操作する。


 教室前方へ大型ホログラムが展開された。


 映し出されたのはダンジョン内部の立体マップ。


「テーマは“モンスター対応チーム戦術”」


 篠崎教官が淡々と続ける。


「ダンジョンでは個人の強さだけでは生き残れん。重要なのは連携だ」


 ホログラム上に複数の魔物が表示される。


 オーク。


 ウルフ。


 ゴブリン。


 それぞれ配置が変化していく。


「問題」


 篠崎教官が教室を見渡した。


「前衛二名がオーク三体と交戦中。後方からウルフ二体が接近。さらに退路側にはゴブリン集団」


 ホログラムが包囲陣形へ変化する。


「この状況で、お前たちはどう動く?」


 教室が静まった。


 少しして、紅音が手を上げる。


「紫乃宮紅音」


「はい。前衛突破を優先します。オークを最速で減らし、包囲完成前に戦線を押し切ります」


「悪くない」


 篠崎教官が頷く。


「だが、突破速度次第では後方を食われる」


「……はい」


 続いて九条が手を挙げた。


「九条隼人」


「俺ならウルフを先に潰します。機動力あるやつ放置すると崩されるんで」


「それも一理ある」


 篠崎教官が腕を組む。


「だが、前衛負担が大きい。オーク側が崩れれば全滅もある」


「ぐっ……」


 九条が唸る。


 そして。


「他は?」


 篠崎教官が教室を見渡す。


 だが、誰も手を挙げない。


 重たい沈黙。


 そんな中。


 篠崎教官の視線が、ゆっくりこちらへ向いた。


 嫌な予感しかしない。


「……紫乃宮深樹」


「はい?」


「お前ならどう動く」


 教室の空気が変わった。


 一気に視線が集まる。


「えー……」


「答えろ」


 逃がしてくれないらしい。


 面倒だ。


 だが黙る方が余計に怪しまれる。


 俺は軽く頭を掻きながら口を開いた。


「……退路確保を優先します」


 ホログラムを見ながら続ける。


「支援役が視界誘導すれば包囲は崩せるので。前衛は無理に突破せず、退路側のゴブリンを削って移動経路を作るべきかと」


 教室が静まり返る。


「続けろ」


 篠崎教官が短く言う。


「ウルフは速いですけど耐久は低い。狭い通路へ誘導すれば同時攻撃数を制限できます」


 ホログラム上の地形を指差す。


「ここならオーク側も足を止められるので、包囲完成前に立て直せます」


 数秒の沈黙。


 そして。


「……正解だ」


 篠崎教官が静かに言った。


 教室がざわつく。


「ダンジョン戦では“敵を倒す”より、“生き残る”ことが優先される」


 篠崎教官の視線がこちらへ向く。


「今の回答は実戦的だった」


「どうも」


 適当に返す。


 だが。


「……まただ」


 隣で九条が小さく呟いていた。


 前の席では、紅音が少し嬉しそうに笑っている。


 ……嫌な流れになってきた。


 その後の授業は簡易戦術訓練へ移行した。


 生徒同士で即席チームを組み、小型ホログラムを使った模擬連携訓練。


 敵役AIを相手に、どう動くかを試される。


「深樹、後ろ頼む!」


「はいはい」


 九条と紅音が前へ出る。


 俺は後方から最低限の支援だけを行う。


 能力出力もかなり抑えていた。


「右、二歩」


 短く指示。


 直後、九条が振り向きざまに雷撃を叩き込む。


「うおっ、今の避けられたのか」


「左から来てた」


「見えてねぇって普通!」


 九条が驚く。


 紅音は小さく笑っていた。


「また抑えてる」


「なんのことだ」


「分かるよ」


 昔から全部見抜かれる。


 やりづらい。


 結局、訓練はそのまま終了した。


『本日の授業を終了します』


 チャイムが鳴る。


 同時に、教室の空気が緩んだ。


「やっと終わったぁ……」


 九条が机へ突っ伏す。


「疲れすぎだろ」


「お前が平然としすぎなんだよ……」


 それは知らない。


 周囲の生徒たちも帰宅準備を始めていた。


 部活動へ向かう者。


 自主訓練へ行く者。


 友人同士で騒ぐ者。


 中央探索学園の放課後は意外と賑やかだ。


「お兄ちゃん」


 紅音が鞄を持ちながらこちらを見る。


「今日は一緒に帰る?」


「いや、ちょっと寄る場所ある」


「そっか」


 紅音は少しだけ考えるような顔をした後、小さく頷いた。


「無理しないでね」


「してない」


「それ毎回言うよね」


「便利だからな」


 紅音が呆れたように笑う。


「じゃあ夕飯作って待ってるね」


「ああ」


 紅音は1人教室を出ていった。


 静かになる。


 夕陽が窓から差し込んでいた。


 残っているのは数人だけ。


 俺はしばらく窓の外を眺めた後、小さく息を吐いた。


「……もういいか」


 誰もいないことを確認する。


 そして。


 机に指で魔法陣を書いて前方へ投げた。


 黒色の魔法陣が静かに広がる。


 普通の生徒なら気づけないほど薄い魔力。


 だが、その精度は異常だった。


「来い」


 短く呟く。


 次の瞬間。


 黒い粒子が空間へ溶け出した。


 影が揺れる。


 そして、そこから一人の少女が姿を現す。


 腰まで伸びた黒髪。


 紫がかった瞳。


 そして、黒を基調としたクラシカルなメイド服。


 白いフリルに包まれた袖。


 腰元のリボン。


 ロングスカートの裾が静かに揺れる。


 一見すると上品な屋敷付きのメイド。


 だが、周囲へ漂う魔力だけが異様だった。


「お呼びですか、深樹様」


 静かな声。


 少女は慣れた動作で一礼する。


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