表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

『放課後の出来事』

「お呼びですか、深樹様」


 静かな声。


 少女は慣れた動作で一礼する。


「久しぶりだな、ルナ」


「はい」


 ルナ。


 深樹が契約する召喚存在の一人。


 闇魔法を扱う特殊個体。


 だが本人は至って穏やかで、人間とほとんど変わらない。


「学園生活には慣れましたか?」


「慣れたくなかった」


「ふふっ」


 ルナが小さく笑う。


「ですが、以前より楽しそうです」


「気のせいだろ」


「そうでしょうか?」


 見透かしたような目だった。


 紅音とは別方向で鋭い。


「それで、今日は何を?」


「帰り道に手伝って欲しい事がある」


「尾行の気配ですね?」


「気づいてたか」


「もちろんです」


 ルナが静かに頷く。


「かなり未熟ですが」


「同感」


 深樹は席を立つ。


 ルナも自然に後ろへ続いた。


 まるで最初からそこにいたかのように。


「目立つなよ」


「善処します」


「その返答、不安なんだよな……」


 小さくため息を吐きながら、深樹は教室を後にした。


 夕陽が街を赤く染めていた。


 中央探索学園から少し離れた帰り道。


 住宅街を抜けた先にある細い路地。


 人通りは少ない。


 深樹はポケットへ手を入れたまま歩いていた。


 その少し後ろを、ルナが静かについてくる。


「……まだついてきてるな」


 深樹が小さく呟く。


「はい。尾行というにはかなり雑ですが」


 ルナが淡々と返した。


「敵意は無さそうですね」


「だろうな」


 だから放置していた。


 もし敵意があるなら、とっくに撒いている。


 だが。


 そろそろ面倒だった。


「この辺でいいか」


 人気のない細道へ入る。


 古い街灯。


 夕方の静かな空気。


 そこで深樹は足を止めた。


 ルナも自然に立ち止まる。


 数秒後。


「……で?」


 深樹が振り返る。


「いつまでコソコソしてるつもりだ?」


 一瞬、沈黙。


 次の瞬間。


「うわ、やっぱバレてた!?」


 電柱の陰から、銀髪の少女が勢いよく飛び出してきた。


 短い銀髪。


 赤い瞳。


 少し着崩した制服。


 そしてやたらテンションが高い。


「いやー、結構自信あったんだけどなぁ!」


「全然隠れられてなかったぞ」


「マジで?」


「マジで」


「ショック……」


 言いながらも全然落ち込んでいない。


 むしろ楽しそうだった。


「えっと、確か……」


「霧島雪那!」


 ビシッと自分を指差す。


「同じクラス! 忘れたとは言わせないからね!」


「いや、覚えてる」


「今ちょっと怪しかった!」


 勘が鋭い。


 クラスでも目立つタイプだから印象は強い。


 休み時間も常に誰かと話しているようなやつだ。


「で?」


 深樹がため息混じりに言う。


「なんで尾行してた」


「いやぁ、気になって」


「何が」


「全部!」


 即答だった。


 雪那がぐいっと距離を詰めてくる。


「模擬戦の時から思ってたけどさ、絶対変でしょあんた!」


「失礼だな」


「だって落ちこぼれっぽくないもん!」


「っぽくってなんだ」


「なんていうか……余裕ある?」


 雪那が首を傾げる。


「みんなオーガで焦ってたのに、深樹だけ冷静すぎたし」


「気のせいだ」


「それみんなに言ってるでしょ」


 鋭い。


「しかも今日の授業!」


 雪那がさらにテンションを上げる。


「あの授業の回答、めちゃくちゃ実戦的だったじゃん!」


「普通だろ」


「普通じゃないって!」


 やたら食いついてくる。


 ルナが静かに深樹へ視線を向けて耳打ちした。


「深樹様、随分賑やかな方ですね」


「俺も今そう思ってる」


「え、誰その美人!?」


 ようやくルナへ気づいたらしい。


 遅い。


「ルナです」


 ルナがスカートの裾を軽く摘み、一礼する。


「深樹様に仕えております」


「え、メイドさん!?」


 雪那の目が一気に輝いた。


「なんで!? なんで学校帰りにメイドいるの!?」


「色々あるんだよ」


「絶対その“色々”で済むやつじゃないよね!?」


 正論だった。


 だが説明する気はない。


「いやでもさ!」


 雪那がニヤッと笑う。


「ちょっと安心したかも」


「何が」


「ちゃんと秘密あるタイプだった」


「嬉しそうに言うな」


「そりゃ楽しいし!」


 本当に遠慮がない。


 だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「で、結局なにがしたいんだ」


「んー?」


 雪那が少し考える。


 そして。


「深樹の“本気”、見てみたい」


 真っ直ぐな目だった。


「絶対、まだ隠してるでしょ?」


 夕陽が銀髪を赤く照らす。


 騒がしい。


 距離も近い。


 だが、その目だけは妙に真剣だった。


 深樹は小さく息を吐く。


「……買い被りだ」


「またそれ言った!」


 雪那が即座にツッコむ。


「もうその台詞聞き飽きたんだけど!」


「便利だからな」


「認めた!?」


 雪那が大げさに肩を落とす。


 本当に感情表現が忙しい。


 深樹は小さくため息を吐いた。


「で、満足したなら帰れ」


「えー、まだ全然足りないんだけど」


「俺は足りてる」


「冷たっ!」


 雪那が不満そうに頬を膨らませる。


 だが、その視線はやはり鋭かった。


「でもさぁ」


 雪那が少しだけ声のトーンを落とす。


「深樹って、“戦う人の目”してるよね」


 一瞬だけ空気が止まった。


 ルナの視線が細くなる。


 だが雪那は気づかず続けた。


「うまく言えないけど、普通の学生とは違う感じ」


「考えすぎだ」


「そうかなぁ?」


 雪那は納得していない顔だった。


 このままでは面倒になる。


 深樹は小さく息を吐き、ちらりとルナを見る。


 ルナは静かに頷いた。


「ルナ」


「はい」


 次の瞬間。


 ルナの足元から、黒い魔力が静かに広がった。


 夕暮れの影へ溶け込むような闇。


 雪那が目を瞬かせる。


「……え?」


 空気が揺れる。


 視界の端がぼやける。


 ルナが静かな声で呟いた。


「《シャドウ・ミスト》」


 ふわり、と薄い黒霧が舞う。


 視界を遮るほどではない。


 だが――認識へ干渉する闇魔法。


「ちょ、なにこれ……?」


 雪那が眉をひそめる。


 その瞬間。


 ルナの紫色の瞳が淡く輝いた。


「《メモリー・フェード》」


 静かな詠唱。


 黒霧が雪那の周囲を優しく包む。


「……ぁ……」


 雪那の意識がわずかに揺れる。


 “ここへ来た理由”。


 “誰を追っていたか”。


 “何を話していたか”。


 その輪郭だけが、ゆっくり薄れていく。


 強引な記憶改竄ではない。


 ただ、“気のせいだった”程度に認識をぼかすだけ。


 数秒後。


 霧が静かに晴れる。


 そこには誰もいなかった。


「…………あれ?」


 雪那が小さく瞬きをする。


 気づけば、自分は人気のない路地に立っていた。


「なんでこんな所いるんだっけ……」


 少し考える。


 だが答えは出ない。


「……まあいっか」


 深く気にする性格ではなかった。


 雪那は軽く伸びをすると、そのまま帰り道へ歩き出す。


 夕陽が銀髪を赤く照らしていた。


 一方その頃。


 少し離れた建物の屋上。


 深樹はフェンスへ軽く寄りかかりながら、街を見下ろしていた。


 その隣にはルナが静かに立っている。


 遠く。


 小さくなっていく雪那の姿が見えた。


「……ほんとに気にしてないみたいですね」


 深樹が呟く。


「表面上は、ですが」


 ルナが静かに答える。


「完全には消しておりませんので。違和感くらいは残るかと」


「十分だろ」


 深樹は小さく息を吐いた。


 雪那は途中で何かを思い出しかけたように足を止め――だが結局、首を傾げながら再び歩き出す。


 その姿を見て、ルナが小さく微笑んだ。


「面白い方ですね」


「騒がしいだけだ」


「ですが、深樹様は嫌っていないように見えます」


「……気のせいだ」


「そうでしょうか?」


 またそれだ。


 見透かしたような目。


 深樹は誤魔化すように空を見上げる。


 夕焼けが少しずつ夜へ変わり始めていた。


「また接触してくると思います」


「面倒だな……」


 そう言いながらも。


 深樹の表情は、どこか少しだけ柔らかかった。


夕焼けが、ゆっくり夜へ変わっていく。


 街の灯りが一つずつ点き始めていた。


「帰るか」


 深樹がフェンスから背を離す。


「はい」


 ルナも静かに頷いた。


 二人は屋上から降り、人通りの少ない裏道を歩いていく。


 夜風が少し冷たい。


 ルナのロングスカートが静かに揺れていた。


「しかし」


 ルナが隣を歩きながら口を開く。


「あの霧島雪那という方。かなり積極的ですね」


「距離感がおかしいだけだろ」


「深樹様が警戒を完全に解いていない相手へ、あそこまで近づくのは珍しいかと」


「……別に許した覚えはない」


「ですが、排除もしませんでした」


 深樹は少しだけ眉をひそめる。


 言い返せない。


「面倒事になりそうだ」


「楽しそうでしたよ」


「どこが」


「先程の深樹様です」


 ルナが小さく笑う。


 深樹はため息を吐いた。


「お前、最近よく笑うようになったな」


「深樹様の影響かもしれません」


「嫌な予感しかしない」


「ふふっ」


 本当に笑った。


 昔なら考えられない。


 そんなことを思いながら、深樹は夜道を歩く。


 やがて住宅街へ入る。


 周囲には落ち着いた家々が並び、窓から暖かな灯りが漏れていた。


 その一角。


 少し大きめの二階建て住宅の前で、深樹は足を止める。


「着いた」


「本日もお疲れ様でした」


 ルナが静かに頭を下げる。


 深樹は玄関扉へ手をかけ――そこで止まった。


「ルナ」


「はい」


「今日はそのままいていい」


 ほんの少しだけ、ルナの目が丸くなる。


「珍しいですね」


「たまには紅音にも合わせてやらないとな」


「お優しいこと」


「うるさい」


 すると。


 ガチャッ。


 突然、玄関扉が開いた。


「お兄ちゃん遅――」


 視線は深樹の隣へ。


 そして。


 そこまで言って、紅音の目が大きく開く。


「……あ!」


 次の瞬間。


「ルナ!!」


 ぱぁっと表情が明るくなる。


 紅音はそのまま勢いよく駆け寄った。


「久しぶり! いつぶり!?」


「お久しぶりです、紅音様」


 ルナが柔らかく微笑む。


「最後にお会いしたのは半年前ほどでしょうか」


「そんなに経ってた!?」


 紅音は嬉しそうに目を輝かせる。


「相変わらず綺麗……メイド服も似合ってるし……」


「ありがとうございます」


 深樹はその様子を見ながら小さく息を吐いた。


「馴染むの早いな」


「だってルナだもん」


 当然のように言う紅音。


「今日は泊まるの?」


「その予定です」


「やった!」


 完全に歓迎ムードだった。


 深樹は少しだけ肩の力を抜く。


 さっきまでの面倒な空気とは違う。


 この空気は、嫌いじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ