表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

『模擬戦終了』

巨大なオーガが地面へ崩れ落ちる。

 直後、洞窟全体へ機械音声が響いた。

『対象個体の機能停止を確認』

『模擬戦闘を終了します』

 アナウンスと同時に、周囲の景色が

粒子状に崩れていく。

 岩場が消える。

 洞窟が消える。

 薄暗かった空間は、元の白い訓練場へ戻っていった。

「はぁ……っ」

 九条が大きく息を吐く。

「なんだったんだよ今の……」

 かなり消耗していた。

 無理もない。

 本来なら一年が相手するレベルじゃない。

「お疲れ、九条くん」

 紅音が剣を収め歩み寄りながら声をかける。

「いや、お前も普通に強すぎるだろ……」

「そう?」

「そうだよ!」

 九条が思わずツッコむ。

 だが、その視線は途中で俺へ向いた。

「……それとお前」

「ん?」

「なんなんだよ、あの的確な指示」

「普通の指示だけど」

「普通じゃねえから言ってんだろ!」

 即否定された。

 そんなに変だっただろうか。

「全部タイミング合いすぎなんだよ。なんで攻撃来る場所まで分かるんだ」

「見てればなんとなく」

「なんとなくでオーガ捌けるか!」

 ごもっともである。

 だが説明も面倒なので黙っておく。

「……やっぱり」

 隣で紅音が小さく笑った。

「お兄ちゃん、ちゃんとやれば凄いんだから」

「やってないみたいに言うな」

「全然やってないもんね?」

「気のせい」

「絶対違いますぅ~」

 紅音はニヤニヤしながら話してきた。

 まあ、昔から誤魔化せた試しがない。

 その時だった。

「紫乃宮深樹」

 低い声が響く。

 振り返ると、篠崎教官がこちらへ歩いてきていた。

 鋭い視線。

 まっすぐ俺を見る。

「オーガ戦の指示、お前が出していたな」

「はい、一応」

「戦闘経験は?」

「少しだけです」

「それにしては教員レベルを越えるものが見えた」

 過大評価しすぎだと思うけど…。

 それにしても目付きが怖いな…。

「オーガの動きを完全に読んでいたな。あれは教本レベルじゃない」

「たまたまですよ」

「その“たまたま”で上級模擬体は止められん」

 篠崎教官の視線が細くなる。

 ……まずい。

 この人、かなり勘が鋭い。

「篠崎教官」

 その時、紅音が一歩前へ出た。

「お兄ちゃんは昔から観察力だけは凄いんです」

「“だけ”か?」

「……それ”だけ”です」

 紅音が笑みを浮かべ少しだけ笑う。

 篠崎教官はしばらく紫乃宮兄妹を見ながら黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。

「まあいい。今回の件は模擬システム側のエラーだ」

 周囲の生徒たちもざわついている。

 一年用訓練にオーガが混ざったのだ。

 当然騒ぎになる。

「だが、お前たちの連携は悪くなかった」

 篠崎教官が淡々と告げる。

「特に紫乃宮紅音」

「はい」

「剣筋が安定している。実戦でも通用するレベルだ」

「ありがとうございます」

「九条隼人」

「……はい」

「突っ込みすぎだ。単独で前に出る癖を直せ」

「うっ……」

 図星だったらしい。

 そして最後に。

 篠崎教官の視線が再び俺へ向く。

「紫乃宮深樹」

「なんです?」

「お前はもっと前に出ろ」

「善処します」

 即答した。

 周囲が静まる。

 紅音が吹き出した。

 九条は「マジかこいつ……」みたいな顔をしている。

 だが俺は本気だった。

 目立つのは面倒だ。

「はぁ……」

 篠崎教官が頭を押さえる。

「お前みたいなのが一番厄介なんだがな……」

 その呟きは、妙に疲れて聞こえた。

『本日の模擬戦闘訓練を終了します』

『各生徒は結果を端末で確認してください』

 機械音声のアナウンスが響く。

 同時に、生徒たちが一斉に動き始めた。

 壁際へ設置された端末へ向かい、それぞれ戦闘結果を確認していく。

「うわ、絶対順位更新されてるって」

「九条の撃破数すごくなかった?」

「でも最後のオーガ、紅音が決めたよな?」

 周囲がざわついていた。

 まあ、当然だろう。

 一年の模擬戦でオーガが出るなんて前代未聞だ。

「……面倒なことになりそう」

 俺は小さく呟く。

「もうなってると思うよ?」

 紅音が苦笑した。

 そんな話をしながら、近くの端末へ向かう。

 画面へ学生証をかざす。

 直後、戦闘結果が表示された。

────────────────

【模擬戦闘結果】

■九条 隼人

撃破数:8

総合評価:A

■紫乃宮 紅音

撃破数:5

総合評価:A

■紫乃宮 深樹

撃破数:0

支援評価:B+

総合評価:C

────────────────

「……え」

 九条が固まった。

「支援評価B+?」

 驚いたように画面を見る。

「お前、支援型でもそんな高くなかっただろ」

「今日はちょっと頑張った」

「ちょっとでB+行くか普通?」

 行かないらしい。

 まあ確かに、普段はもっと抑えている。

「でも総合Cなんだね」

 紅音が不満そうに言う。

「撃破ゼロだからじゃね?」

「支援型なのに?」

「学園は実戦至上主義だからなぁ」

 九条が肩をすくめた。

 中央探索学園は結果主義だ。

 どれだけ支援能力が高くても、“直接戦えない”と評価は上がりづらい。

 だからこそ、支援型は軽く見られやすい。

「……まぁ、目立たなくていいからな?」

「え?何か言った?」

「ナンデモナイデス。」

紅音が訝しげに見てきた

「全く。相変わらずなんだから……」

 紅音がヤレヤレと言った感じになっていた。


 その時。

 別の端末前からざわめきが広がった。

「え、篠崎教官から特別コメント来てる」

「マジ?」

 生徒たちが次々と画面を開いていく。

 俺達も端末へ視線を戻した。

────────────────

【担当教官コメント】

紫乃宮深樹

戦況分析能力に優秀な適性あり。

今後の成長次第では、

指揮官型探索者として期待。

────────────────

「…………」

 沈黙。

 隣で九条がゆっくりこちらを向く。

「お前さ」

「なんだ」

「ほんとに何者?」

「普通の支援型」

「それを信じろって方が無理だろ……」

 九条が呆れたように言う。

「深樹、お前いつの間に篠崎教官に気に入られたんだ?」

「知らん」

「いや絶対目付けられてるって」

 それは俺も思う。

 あの教官、妙に勘が鋭い。

 あまり目立ちたくないんだが……。

「お兄ちゃん」

 紅音が端末を覗き込みながら、小さく笑う。

「ちゃんと評価されてるじゃん」

「支援評価だけな」

「でもB+だよ?」

「十分おかしいからな、それ」

 九条が即座に突っ込む。

 普通、一年の支援型でB台はかなり高いらしい。

 ……まあ、加減を少し間違えた自覚はある。

「九条くんのも見せて」

「ん?」

 九条が自分の端末を開く。

────────────────

【担当教官コメント】

九条隼人

高火力かつ瞬間制圧能力に優れる。

判断速度も一年としては高水準。

ただし単独行動の傾向あり。

連携意識を改善すれば更なる成長が期待できる。

────────────────

「うわ、めちゃくちゃ言われてるじゃん」

 紅音が苦笑する。

「ぐっ……」

 九条が露骨にダメージを受けていた。

「単独行動は自覚あるけどさぁ……」

「実際突っ込みすぎ」

「紅音に言われると反論できねぇ」

 九条が肩を落とす。

 だが評価自体はかなり高い。

 篠崎教官のコメントも期待込みだった。

「紅音のは?」

「見る?」

 今度は紅音が端末をこちらへ向ける。

────────────────

【担当教官コメント】

紫乃宮紅音

剣技・魔力操作ともに極めて優秀。

特に戦闘中の対応力は一年上位。

実戦経験を積めば主力級探索者へ成長可能。

────────────────

「相変わらず高評価だな」

「紅音は有名だからなぁ……」

 九条も感心したように言う。

 実際、紅音は入学直後から注目されていた。

 努力型の天才。

 そう呼ばれている。

「でも」

 紅音がちらりとこちらを見る。

「今日一番すごかったのはお兄ちゃんだけどね」

「はいはい」

「流さないでよ」

 少し頬を膨らませる。

 その様子を見て、九条がなんとも言えない顔をした。

「お前らほんと仲良いな……」

「双子だからかな?」

紅音が嬉しそうに応える。

「いや、それだけじゃ説明つかねえ気がする」

 まあ、昔からこんな感じだ。

 その時。

 ぐぅぅ……。

 小さな音が響いた。

 一瞬、沈黙。

 紅音がぴたりと動きを止める。

「……」

「……紅音?」

「聞こえてない」

「いや聞こえた」

「聞こえてない」

 どうやら腹が減ったらしい。

 九条が吹き出した。

「ははっ、お前そんなキャラだったのか」

「うるさい」

 紅音が少しだけ睨む。

 だが耳が赤い。

「もう昼休みだし、食堂行く?」

 紅音が話題を変えるように言った。

「あー、俺は購買かな」

 九条が答える。

 中央探索学園の昼は戦争だ。

 特に購買の人気メニューは数分で消える。

「じゃあ急がねえと売り切れるぞ」

「やばっ」

 九条が慌てて走り出そうとする。

 だが途中で止まり、こちらを振り返った。

「……深樹」

「ん?」

「次の模擬戦、また組め」

「嫌だ」

「即答!?」

「面倒だから」

「そこをなんとか!」

 本気で言っている辺り、だいぶ態度が変わっていた。

 最初の見下した感じはもう薄い。

 代わりに、

 “気になる”

 そんな視線になっている。

「まあ考えとく」

「絶対考えてないだろそれ!」

 九条は最後まで騒がしく、そのまま購買へ走っていった。

 その背中を見送りながら、紅音が小さく笑う。

「気に入られたね、お兄ちゃん」

「勘弁してほしい」

「でも悪くないでしょ?」

「静かな学園生活が遠ざかってる気がする」

「最初から無理だったと思うよ?」

 紅音がくすっと笑う。

 ……否定できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ