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『妹だけが俺の強さを知っている』  作者: ミキ


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2/6

『模擬戦闘開始』

「それでは各チーム、配置につけ」

 篠崎教官の低い声が訓練場へ響く。

 同時に、立体映像だった模擬ダンジョンが実体化を始めた。

 白い床が岩場へ変わる。

 天井には無数の亀裂。

 薄暗い空間。

 湿った空気。

 一瞬で景色は洞窟地帯へと変貌した。

「毎回思うけど、無駄にリアルだよな……」

「それだけ実戦に近づけてるってことだよ」

 隣で紅音が周囲を見回す。

 一方、前を歩く九条は露骨に不満そうだった。

「なんで俺がこんな編成なんだよ……」

「まだ言ってるのか」

「そりゃ言うだろ。普通もっとまともな支援型来ると思うじゃん」

 遠慮がない。

 まあ、学園内の評価を考えれば当然か。

『模擬戦闘開始まで十秒』

 機械音声が響く。

 同時に、各チームの周囲へ半透明の障壁が展開された。

 開始位置固定用の結界だ。

「作戦確認するぞ」

 九条が振り返る。

「俺が前衛。紅音が中衛。深樹、お前は後ろで支援だけしてろ」

「了解」

 即答。

 実際そのほうが楽だ。

 だが紅音だけは少し不満そうだった。

「お兄ちゃんが中衛のほうが――」

「出ない」

「即答……」

「目立ちたくない」

「もう十分目立ってるよ。“悪い意味”で」

 ぐさっときた。

『戦闘開始』

 障壁が消える。

 同時に、洞窟奥から複数のゴブリン型モンスターが飛び出してきた。

「行くぞ!」

 九条が即座に地面を蹴る。

 雷光が体全身へ走った。

「《雷撃装纏》!」

 一瞬で距離を詰める。

 鋭い拳撃がゴブリンを吹き飛ばした。

 電撃が炸裂する。

 かなり綺麗な動きだった。

「紅音!」

「うん!」

 紅音が魔力を展開。

 赤い光が九条へ流れ込み、身体能力を底上げする。

 連携は悪くない。

 むしろ一年にしてはかなり良い部類だ。

「深樹!モタモタするな!」

「あーはいはい」

 軽く能力を発動する。

《単一支援 身体強化》

 淡い光が九条の身体へ流れ込んだ。

 次の瞬間。

 九条の動きが、ほんのわずかに鋭くなった。

 ゴブリンの爪撃を最小限の動きで回避し、そのまま雷撃を叩き込む。

「……ん?」

 九条が小さく眉をひそめた。

「どうかしたの?」

「いや……なんか妙に動きやすい」

「支援入ってるからあたり前じゃない?」

 紅音が当然のように言う。

「そうなんだけど……」

 九条は少しだけ不思議そうに自分の手を見る。

 劇的な変化じゃない。

 だが、

 身体の重さが自然に消えていた。

 呼吸も乱れにくい。

 視界も妙に広い。

 ほんの少し。

 本当に少しだけ戦いやすい。

 それが逆に気持ち悪かった。

「……まあいい!」

 九条は再び前へ出る。

 雷撃が洞窟内を走り、ゴブリンを次々撃破していく。

 紅音も的確に中衛の役割をこなしていた。

 このまま普通に終わる。

 本来なら。

 雷撃が洞窟内へ走る。

 最後の一体だったゴブリンが吹き飛び、壁へ激突した。

 同時に、機械音声が響く。

『第一エリア制圧確認。撃破数をカウントします』

 青白い数字が空中へ表示される。

【九条隼人:7】

【紫乃宮紅音:4】

【紫乃宮深樹:0】

「……ゼロかよ」

 九条が呆れたように振り返る。

「お前ほんと支援しかしてねえんだな」

「支援型だからな」

「いやそれはそうだけど」

 納得いかない顔をされた。

 一方で紅音だけは、少し不満そうだった。

「お兄ちゃん絶対もっと動けたでしょ」

「まだ始まったばっかだろ」

「それ毎回言うよね」

 じとっとした視線が飛んでくる。

 そんなやり取りをしながら、俺は洞窟奥へ視線を向けていた。


 ――妙だ。

 空気が重い。

 洞窟の奥。

 暗闇のさらに先から、嫌な魔力反応を感じる。

 ゴブリンとは比較にならない。

 模擬戦用モンスターにしては妙に濃かった。

「……?」

 思わず目を細める。

 その瞬間だった。

 洞窟奥から、低い咆哮が響く。

 空気が震えた。

「なんだ……?」

 九条が警戒して前へ出る。

 紅音も表情を引き締めた。

 次の瞬間。

 ズン、と重い足音。

 暗闇の中から現れた巨大な影に、周囲の空気が変わる。

「――オーガ!?」

 九条が声を上げた。

 全身二メートルを超える巨体。

 灰色の皮膚。

 丸太のような腕。

 模擬体とはいえ、圧力がゴブリンとは別格だった。

「いや待て、なんで一年用エリアにこんなのいるんだよ!?」

「普通は出ないはず……!」

 紅音も驚いている。

 当然だ。

 オーガ級は、本来なら二年後半以上で扱う模擬体。

 一年の実習に混ざる相手じゃない。

『警告。模擬モンスター制御に軽度エラーを確認』

 機械音声が響く。

『該当個体の危険度を再測定中――』

「いや遅いだろ!」

 九条が叫ぶ。

 その間にもオーガが地面を踏み砕きながら突進してきた。

「来る!」

 九条が雷を纏う。

 だが、その前に俺は口を開いた。

「九条、正面から受けるな。押し負けるぞ」

「はぁ!?」

「紅音、右から回れ。脚を狙え」

少し笑みを浮かべてから

「了解!」

 紅音が地面を蹴る。

 赤い魔力を纏った細身の剣が抜き放たれた。

 一瞬でオーガの側面へ回り込む。

「はやっ――」

 九条が驚く間もなく、紅音の剣閃が走った。

 鋭い斬撃がオーガの膝を斬り裂く。

「グォォォッ!」

 巨体がわずかに揺れた。

「今だ九条。左から雷撃」

「っ、分かってる!」

 雷光が走る。

 九条の一撃がオーガの脇腹へ炸裂した。

 爆音。

 だが、倒れない。

「硬っ!?」

「まともに削ろうとするな。体勢を崩せ」

「簡単に言うな!」

 言いながらも九条は動いていた。

 さっきまでの不満そうな態度が消えている。

 完全に戦闘モードだった。

 悪くない。

 理解は早いタイプか。

 オーガが怒り狂ったように腕を振り上げる。

「紅音、下がれ」

「っ!」

 紅音が即座に後退する。

 直後。

 轟音と共に拳が地面へ叩きつけられた。

 岩が砕け散る。

 もし回避が遅れていれば危なかった。

「次来るぞ。九条、三秒後に右」

「は?」

「いいから動け」

 半信半疑のまま九条が横へ飛ぶ。

 次の瞬間。

 オーガの蹴りが、さっきまで九条がいた場所を通過した。

「っ!?」

 九条の表情が変わる。

「なんで分かった……?」

「見れば分かる」

「いや分かんねえだろ普通!」

 その間にも俺は冷静に観察を続ける。

 呼吸。

 重心。

 筋肉の動き。

 魔力の流れ。

 全部分かりやすい。

 深層の化け物に比べれば、こんなの教本みたいな動きだ。

「紅音、次は左脚。九条は視線引きつけろ」

「了解!」

「おい、なんでお前そんな冷静なんだよ!?」

「慌てても意味ないだろ」

 軽く支援を重ねる。

 ほんの少しだけ。

 紅音の踏み込み。

 九条の反応速度。

 最低限の補助。

 それだけで十分だった。

 紅音が低く踏み込む。

 赤い剣閃がオーガの左脚を斬り裂いた。

 同時に九条の雷撃が炸裂する。

 巨体が大きく体勢を崩した。

「今」

 短く告げる。

 その瞬間、紅音が一直線に駆けた。

 赤い魔力が剣へ収束する。

「――《紅蓮斬》!」

 閃光。

 鋭い一撃がオーガの胸部を斬り裂いた。

 直後。

 九条の雷撃が追撃のように炸裂する。

 轟音。


 そして――。

 巨大なオーガの身体が、ゆっくりと地面へ崩れ落ちた。

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