戦術授業2-2
教室は静かだった。
誰も話さず、モニターを見ている。
モニターには停止した映像。
二体目の敵。
障害物や味方の配置。
ほんの少し前まで、ただの戦闘映像だった。
でも今は違う。
どこが危険だったのか、どうすれば防げたのか。
少しずつ見えるようになっていた。
神崎は教卓にもたれたまま教室を見渡す。
「……まあ、今日やったのは基礎」
一瞬。
「基礎を疎かにしないための資料映像だからね」
教室がざわついた。
「これで基礎!?」
「難しくない!?」
「覚えること多い!」
あちこちから声が上がる。
神崎は紙コップを持ちながら小さく頷いた。
「うん、多い。最初は無理」
「言い切った!?」
小さく笑いが起こる。
神崎は気にせずモニターを指差した。
前衛、後衛、隊列、障害物。
「でも大丈夫。最初から全部見える人はいないし、少しづつ得意な所からできるようになる人がほとんどだよ」
「最初は敵しか見えない。次に味方、距離、地形、その後で違和感。そうやって少しずつ見えるものを増やしていく」
静かな教室。
「だから急に全部やろうとしないで一個ずつでいい。」
教室は静まり返っていた。
深樹は画面を見る。
(……一個ずつかぁ、その場の応用力も必要だよなぁ)
敵の位置。
違和感。
能力。
さっきまでの話が頭を巡る中、ふと思いついた。
「……あ、最後あった」
一瞬。
「忘れてた」
「忘れてた!?」
教室からツッコミが飛ぶ。
神崎は気にした様子もなくモニターを操作した。
カチッ。
映像が切り替わる。
今度は五人パーティ。
通路、広間、障害物。
今まで授業で見てきた要素が全部入っていた。
「これ、結構優秀なパーティだから見本にして欲しい。」
映像が動き出す。
前衛が進む。
後衛が距離を保つ。
支援役も無駄に動かない。
そして――。
『前方二体。右通路注意』
指揮役の、声が響いた。
前衛が位置をずらす。
『左維持。そのまま前』
『後衛はその位置』
敵の出現とさらに別方向から追加で敵が現れる。
『右、一体追加』
『前衛二対応』
誰も慌てない、誰も重ならない。
自虐の的確な支持で迷いなく動く。
数秒後には、戦闘終了。
「……すご」
誰かが呟いた。
神崎は映像を止める。
「今のパーティ、さっきまでと何が違うか分かった?」
静かな教室。
神崎は後方にいる探索者を指差した。
「違うのは指揮役がいること。前衛は敵を見て戦うし、後衛は攻撃や周囲の確認、支援役も味方の状態を見ないといけない。戦闘中って、みんな思ってる以上に忙しい」
画面には距離、視界、障害物、敵位置が並ぶ。
「だから全員が全部見ようとすると判断が遅れる。そこで必要になるのが指揮役」
「敵の位置、味方の動き、地形、周囲の変化を見て、『誰が動くか』『何を優先するか』を判断する」
一瞬。
「さっきまでやってた距離や視界、違和感の確認も全部ここに繋がる」
「強いパーティって、個人が強い集団じゃない」
「ちゃんと全員が役割を持って動ける集団」
深樹は画面を見る。
今までの内容が全部繋がった気がした。
キーンコーン――
終了のチャイムが鳴り響く。
「今日はここまで」
「つっかれたぁ……」
一気に教室の空気が緩む。
だけど深樹だけは、しばらく画面を見ていた。
今日の授業は――思っていた以上に、頭に残っていた。




